──悶々、鬱々、そして突然ぶちキレる。
そのぶち切れ方が、抱腹絶倒、前代未聞、暴走列車。
そこまでに至る静かな語り口が一転して、罵詈雑言に。
綿矢りさの書く主人公はそういう女性が多い。
肥大した自意識で、悶々と悩み、鬱々として苦しむ。
でも、そんな思いは心の内に押し込めて外には微塵も見せない。
ひたすら悶々、鬱々が続く。
そしてあるとき、その抑制した意識はプチン──と音を立てて切れる。
いや、この作品の表現を借りれば、
「今まで故意につなげずにおいた線が、遂につながって電流が行き渡り、充電完了」
と言うべきか。
元カノのアキヨと一緒に住むと言い出す隆大。
愛しているが故に、それを許してしまう樹里恵。
隆大もアキヨもアメリカナイズされているから、ルームシェア感覚でたいしたことじゃないんだ、と自分に言い聞かせる。
でも疑心暗鬼はやはり捨てきれない。
そこでふと見てしまったアキヨの本当の姿。
ついに切れた。
この切れっぷりの爽快さが綿矢りさの独壇場である。
「さあ、なにか気分転換を。ていうか気分どころか、私の人生を変えるくらいの圧倒的にスカッとした電気ショック的転換を」
「彼らをお焚き上げして煙を天へ返すことで私はいま抱えているすべての問題、災厄から解放されるのです」
「突撃、開始。再始動だ」
「アキヨのこわばった表情を見て、自分が一瞬借金取りにでもなった気がした」
「どないせっちゅうねん!」
「お客様もしかして関西のお生まれなんですか? 偶然、私もなんですと頭のなかで接客しているうちに、私はテーブルの湯呑みを手でなぎ倒していた」
“「なにが冷静になれ、や。そんな言葉しか思い浮かばへんのか。アキヨ安心しろ。こんな男なんかくれてやる」ああ、くれてやるもなにも元から私のものではなったのに。”
「しゃーない」
もう、大笑いです。大爆笑。この弾けっぷり。綿矢節満開宣言。
ほんとに、あんな可愛い顔して、どうしてこここまで書けるのだろう。すごいなあ。
とにかく面白いです。比喩や表現はいつものように彼女ならではのものだし。
ほかの誰にも真似のできない綿矢りさオリジナルがここにあります。
是非、ご一読を。といっても、ストーリーを楽しむような小説ではありませんが。
あくまでも、日本語、言葉、表現を楽しむ小説です。
あらためて第6回「大江健三郎賞受賞」おめでとうございます
二作目の「亜美ちゃんは美人」のレビューは「文學界」のほうに書いたのでそちらをご覧ください。
http://booklog.jp/users/koshouji/archives/1/B0051P5G9E
- 感想投稿日 : 2012年7月3日
- 読了日 : 2012年6月28日
- 本棚登録日 : 2012年7月3日
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