眼の壁 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1971年3月30日発売)
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感想 : 41

<「歴史」を考証しながら「社会」を炙り出す作家へ! 「時代」を築いた作家による「古典」>


『目の壁』は、手形詐欺にあった責任を苦に上司が自殺したことから、熱い主人公が立ち上がり、友人にして新聞記者の手を借りながら繰り広げる、大胆な素人探偵物語です! 途中、事件を追っていた弁護士が命を落とし、調査活動は一層な危険味を帯びていきます。
 詐欺をはたらく闇の組織へ、そして真相へと迫る主人公。しかし、組織に関わる者と知りつつも一目惚れした美人秘書の残像が、彼の脳裏にちらつき……★

 直木賞候補作『西郷札』、そして芥川賞受賞作『或る「小倉日記」伝』。初期の松本清張は、文壇に高く評価された一方で、けれん味のない【文学作品】を書いていたのだと思います。
(→https://booklog.jp/users/kotanirico/archives/1/4334074804

 他方、この作品で、著者は「歴史」だけではなく「社会」という近さから、悪の存在について語り始めた気がしたのです。
 現代の社会構造で、一生のうちに金融機関を全く利用しない人はいないはず。ところが、信用第一(一応ね……★)の銀行内で真昼の犯行が行われたわけで……。本書は遠い昔の話ではなく、犯罪組織、詐欺グループはあなたの近くにもいるかもよ、という距離感で迫る怖さがあります★

 さすがに、捜査過程は「時代」を感じさせます。移動手段や時間感覚が違いすぎますね。新幹線のない鉄道の雰囲気や、都市と地方の激しすぎる隔たり、部落に関する記載……★
 これらが犯行そのものに大きく影響しているがために、古い小説だなという印象はぬぐえないかもしれません。細部に過剰なリアリティを求めず、時代劇のようなフィクションとして割り切って読むのがよさそう。
 大筋では、悪いヤツが人からお金を搾り取ったり、都合よく存在を消そうとしたりする危険は、いつの時代も変わらないですしね☆

 時代を代表する作家がターニングを迎えた気配を濃いめに湛えた作品です。松本清張、という作家の変遷を追いかけたい人にとっては、絶対に見逃し厳禁の「古典」の一つではないでしょうか?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 続はっぴゃくじ
感想投稿日 : 2023年12月26日
読了日 : 2021年4月29日
本棚登録日 : 2021年4月29日

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