シビュラの目: ディック作品集 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-14)

  • 早川書房 (2000年6月1日発売)
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本棚登録 : 228
感想 : 12

<昔ながらの中年サラリーマンは疲れているものなのだ!>


 主に中期の短編を集めた作品集♪

 未来のニュースキャスター、ジム・ブリスキンなる男性が、三作に渡って印象深く登場します。人気の秘訣は、よく回る舌と人好きのする笑顔☻ なかなか世渡り上手で、報道の世界から政界へと進出を図るキャラクターです。
 素顔のブリスキンは、わりに平凡な人間かもしれません☆ ニュース映像で見るより実物は少々くたびれた印象みたいですし、マスコミの人間にしては古風な倫理観の持ち主でもある。一仕事終わると飲みに行っちゃったりするライフスタイルも、昔ながらって感じです。
 そして……、何だか疲れてるんですよね。昔ながらの中年男ってのは、黄昏の空気感を醸し出すらしいです★
 というわけで、ジャンルはSFだけどその実態は、いまの時代にもよくいるようなサラリーマンが、疲れながらもお仕事を頑張る仕事人シリーズでした。

 感慨深かったのが『宇宙の死者』。後年に書かれた長篇『ユービック』と『パーマー・エルドリッチの聖痕』を足して、二で割らずに圧縮したような作品です☆ 後にアイディアを長篇に活かしたこと自体、著者自身も気に入っていた証拠ではないでしょうか。個人的に『ユービック』大好き心酔人間なので、特別な気分にさせられました!

 ディックの短篇は、かなり読欲をそそられるものが多いな。あと、小説で読む分には、精神的に病んでいるような作風のモノも、チャーミングなことがあるのです。世界に対する不安と自我の崩壊から、救いを求める。そのうち神秘主義に突っ走ってしまって、クスリをやってみたり、古代ローマから生まれ変わってみたりと、ろれつの回っていないような(?)怪しい作品も続出……★
 それでも、この本に載っているのは、奇をてらうでもなく、まだ意外とストレートに面白い小説、という印象を受けてしまいました。
 ん~、これをストレートだと感じる、自分の感覚が歪んでいる可能性も……!?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: はっぴゃくじ@Review Japan掲載書評
感想投稿日 : 2013年12月14日
読了日 : -
本棚登録日 : 2006年6月5日

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