殺人を呼んだ本 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (1996年3月14日発売)
3.52
  • (23)
  • (31)
  • (70)
  • (8)
  • (0)
本棚登録 : 358
感想 : 41
3

林の中にそびえる古びた洋館・私立野々宮図書館。所蔵されている本は人の死に関わった本ばかり。住み込みで働くことになった三記子は、本にまつわる不思議な事件に巻き込まれていく。

人の死や事件の謎というミステリ要素を土台に、本に宿る遺志を織り交ぜて、ホラーとしての魅力も兼ね備える連作短編集。三記子の幽霊を物ともしない行動力や、ボーイフレンド・好男やゲストキャラとのかけ合いはユーモアもあって読みやすい。『隠れんぼうした本』がタイトルの可愛さとは逆にホラー感たっぷりで怖かった。

『第一の事件 この指にとまった幽霊たち』
見返りに「薫」と書かれた本を手に取った時に訪ねて来た女性。不思議な言葉を残して消えた女性をきっかけに、持ち主だった薫を捜すことに。本人に出会うことができたものの、その本は自分の物じゃないと言い始め─。

「信じてるとか、信じてないじゃなくて、そういうことがあったんだもの。それを認めない、っていうほど頭は固くないわ」
不可解な現象に巻き込まれつつも、真相を突き止めるために行動する三記子がカッコいい。知るほどに謎が深まる薫の謎。閉ざされた本と記憶を開けるのは誰か。ホラーとミステリなのにコメディタッチに読めるのがいいよね。

『第二の事件 明日に希望を』
ある事件を調べたいと現れた少年・高田純男。それは「友紀」と書かれた百科事典を踏み台に起きた一家心中事件だった。なぜ心中しなければならなかったのか。その理由を純男とともに追う。

真実がわかれば、死んだ人は生きている人の思い出の中に帰って来るかもしれない。そう言って真実を探す三記子とフォローをする好男がナイスコンビ。空気銃で狙撃されても「大統領でもないのに?」と言っちゃうぐらいのタフさが好き。希望は絶望の先に。生者と死者の対比が効いててよかった。それにしても、あの人は元凶すぎない?いい話感出してるけど、騙されないぞと(笑)

『第三の事件 殺人を呼んだ本』
15歳のアイドル・直木さをりとの出会い。出演作の原作にしたいという思い出の本『太陽の少女たち』。野々宮図書館にあるものを貸し出すことになったが、その本にもまた人の死が関わっていた。

さをりというアイドルを中心に、田所や好男のコミカルなやり取りが心地いい。本にまつわる悲劇から始まる執念と巡る因果。その内面を慮ると胸が苦しくなる読後感。タイトルを振り返るとなるほど…と思い知らされる。

『第四の事件 隠れんぼうした本』
『カルミナ・ブラーナ』の写本を巡っての兄弟の争い。本をまるで女性のように愛する二人と、好きなところへ行ってしまうという本。本を相手にした恋のさや当ては意外な展開へ─。

本の取り合いに巻き込まれる警察の混乱具合が面白い。最初は「何を言ってるんだ」という印象が、本が生きて動き回っているように感じてくるのが怖ろしい。人間の妄執もさることながら、ラストもドキッとする。
「お金ってのはね、ありゃあったで苦労もふえるもんよ。──そう思ってれば、気が楽じゃない?」
こう言う三記子がなんだかんだで肝が据わってる。

『第五の事件 長い約束』
資産家・畑山知治が死ぬ間際に呼び寄せた相手は、沢田知江という謎の少女と一冊の本だった。その本を遺産として譲られた知江は、遺産相続の争いに巻き込まれる─。

長い約束というタイトルと、知治と知江のシーンは読み返すと味わい深い。まさかあの約束がこんなことになるとは思ってもみなかっただろうね。それは彼の死後の遺産相続争いもそう。きな臭い事件に三記子たちも巻き込まれていく。その中で三記子の恋にも異変が?!三記子は物怖じしないところは好きだけど、そこで乗せられちゃうんかい!ってなった。好男よ頑張れ!応援してるぞ!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年11月9日
読了日 : 2021年11月9日
本棚登録日 : 2021年11月9日

みんなの感想をみる

ツイートする