かばん屋の相続 (文春文庫 い 64-5)

著者 :
  • 文藝春秋 (2011年4月10日発売)
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銀行は、営利企業である。

そのために、顧客のためにあるのではなく、自らの企業の業績を上げるために客(企業、個人)があるのだ。好業績の企業を見つけたら強引に借金をさせて、業績が悪くなったら銀行が損をする前に担保を処分して資金を引き揚げる。もし銀行に損をさせた支店長、融資課長は左遷される。
そんな銀行界において経営者に肩入れする行員の姿が見える。

【十年目のクリスマス】
あきほ銀行で主に中小企業融資を統括するセクションの融資部調査役、永島真司は、デパートで店員に送られて行く神室彦一を見てハッとする。十年前に倒産した経営者がなぜ何十万の買い物が出来るのか。当時の会社の決算書を調べて行くとコンサルタント料として毎月払っていた金額が、実際は火災保険料であって、倒産寸前に倉庫に放火して架空在庫を燃やし、保険金を受け取ったことが分かった。

【セールストーク】
京浜銀行羽田支店の田山支店長は、融資先の小島印刷社長にトラブルになった女との処理をして貰い、手切金三百万円を支払ってもらった。田山は、その見返りに今月末の決済資金五千万円を融資した。仕組みは、田山が、ハネダ塗装店に五千万円を融資して、ハネダ塗装店から田山が借りて、小島印刷に田山が貸す方法を取った。これが支店で行われた「与信検査」で発覚した。支店長は、懲戒解雇された。

【手形の行方】
関東第一銀行の西原敬子は、仕事中に同じ支店に勤務する不倫相手の堀田とファミレスで会う。堀田の妻が妊娠しているのを知り、堀田が集金してきた取引先の割引用の手形を堀田の鞄から盗む。堀田は、支店に帰って来て手形がない事に気が付き、支店を上げて探し続けるが発見されなかった。堀田は、左遷されたが、西原のことは言わなかったが、上司が気がついた。西原は、子供が出来たことが「許せなかった…」

【芥のごとく】
大阪の銀行に入社して二年目の山田一は、初めて融資課に配属されて担当したのが業績の悪く、毎月の資金繰りが大変な従業員5人の土屋鉄商であった。土屋鉄商が、6月26日の決済日に、30日振出日の得意先発行の手形を持って来た。山田は、期日前の手形は割引できませんと。土屋社長は、マチキンで手形を担保に金を借りてきた。それから2ヶ月後、土屋鉄商には、ひとが居なくなった。

【妻の元カレ】
都内の東都銀行に勤めるヒロトは、絵里香と結婚して5年、子供は居ない。普段使わない引き出しに妻の元カレ森中の会社設立の葉書きが。それから妻は、夢であった希望の職種の旅行代理店に派遣として勤めだした。ヒロトは、妻の友人に森中のことを聞くと、絵里香が森中と別れたのは、恋愛と結婚とは違うと。妻が美しくなってくる。ヒロトに大阪への転勤の命が下る頃、森中の会社が倒産する。妻は、カレは私を必要としていると…。

【かばん屋の相続】
白水銀行支店長をやめた亮は、父・義文と弟・均が40年営んで来た「松田かばん」の社長に強引に就任する。亮は、こんなちっぽけな会社の経営なんか簡単だと豪語した。義文は、病床で均に取引先に5億円の連帯保証債務があるため、会社は潰れる、相続は放棄して、新会社を設立して従業員を頼むと。均は、相続を放棄する。そして松田かばんが倒産する。これを池上信用金庫の一行員の視点で書いています。

【読後】
短編6話、すべてにおいて主役が、脇役が、誰が主役かわからないくらい登場人物が全て溌溂としていて素晴らしいです。池井戸潤さんの物語から、人を描くことの面白さが伝わってきます。
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【音読】
2022年8月15日から21日まで、音読で池井戸潤さんの「かばん屋の相続」を大活字本で読みました。この大活字本の底本は、2011年4月に文春文庫から発行された「かばん屋の相続」です。本の登録は、文春文庫で行います。埼玉福祉会発行の大活字本は、上下巻の2冊からなっています。
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かばん屋の相続
2021.11埼玉福祉会発行。字の大きさは…大活字。
2022.08.15~21音読で読了。★★★★☆
十年目のクリスマス、セールストーク、手形の行方、
芥のごとく、妻の元カレ、かばん屋の相続、の短編6話。
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読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 警察小説、ミステリーなど
感想投稿日 : 2022年8月21日
読了日 : 2022年8月21日
本棚登録日 : 2022年8月15日

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