厭魅の如き憑くもの (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2009年3月13日発売)
3.68
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本棚登録 : 2152
感想 : 249
5

「わたしをぉ、殺したのはぁ......おまえだよっ!!!」
「ぎゃー」

こんな怪談が子供の頃に流行ったが、犯人指名のシーンで次の頁をめくった瞬間、この感覚に似た驚きと恐怖を味わった。

神々櫛(かがくし)村。
代々、憑き物筋でありながら同時に憑き物落としを取り仕切る谺呀治(かがち)家と、それに対抗し村を二分する力を持つ神櫛(かみぐし)家。
村中の至る所に立てられ畏れ崇められている「カカシ様」
そして正体不明の最も忌まわしき憑き物、厭魅(まじもの)。
神隠しの噂の絶えないこの村を怪奇小説家の刀城言耶(とうじょうげんや)が訪れた時、不気味な連続怪死事件の幕が上がる。

『首無の如き祟るもの』が抜群に面白かったのでシリーズ一作目に手を出したのだが、これがまあ怖い。初期の作品なので文章に若干の読みにくさは感じられるものの、それがより気味の悪さを引き立てているのかもしれない。
村の名前や屋号の仰々しさ、文字は違えど代々同音で「サギリ」と読ませる巫女の一族など、虚構と現実のバランスが横溝正史が4:6なら、三津田信三は6:4。僕らの住む世界と地続きのようでありながら「ここではないどこか感」が漂ういい塩梅。

村での出来事が、谺呀治家の紗霧の日記、刀城言耶の取材ノート、神櫛家の漣三郎の記述録の視点から語られ、読者はその全体像を俯瞰する形となる。
走りながら考えるタイプの刀城言耶の、いい意味での迷探偵っぷりに最後までドキドキさせられ(本人には探偵の意識はなく、作中でも指摘されるゴーストハンターの役回りのようだが)、アッと言わされる。犯人は予想の範疇ではあったが(とはいえミステリを読む時は全てを疑ってかかるので当然なのだが)真実に震え上がった。

ミステリとホラーの融合という難しい試みを成功させているこのシリーズ。ミステリ部分での面白さは『首無』にやや軍配が上がるが、ホラー部分では断然こちらが上。
全体的な雰囲気はもちろんだが、全ての可能性を論理的に排除した後に残る恐怖。うまいなぁ。

刀城言耶シリーズ、これからも追いかけていきたいと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ(国内)
感想投稿日 : 2012年12月26日
読了日 : 2012年12月16日
本棚登録日 : 2012年12月16日

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コメント 9件

jyunko6822さんのコメント
2012/12/21

私も読みました。
恐かったですねぇ・・・
フォローありがとうございます。

kwosaさんのコメント
2012/12/26

jyunko6822さん

コメントありがとうございます。

怖かったですよねぇ・・・
「・・・」のしみじみ感。わかります。
もちろんミステリとしてもよく出来ていましたよね。面白かったなぁ。

九月猫さんのコメント
2013/06/29

kwosaさん、こんばんは!

早速こちら、購入してきました♪
kwosaさんが☆を6コつける勢いの「首無」と迷いましたが、初めて読むのでやはり1作目から。
「手ごろ」の基準が300頁プラマイ1割なので、分厚さに腰が引けていますが、楽しみです!
都筑道夫さんの『七十五羽の烏』もクイーンの新訳も近いうちにはっ。
あまりお役に立てる紹介ができなかったのに、おもしろそうな作品を教えていただいて、わたしがトクしちゃいました(笑)
ありがとうございます(´∀`*)

倉知さんの猫丸先輩シリーズは短編が楽しいですけれど、「過ぎ行く風はみどり色」も倉知さんらしい作品だと思います。
kwosaさんにとって新しい良い出会いになりますように。
個人的には「壷中の天国」がおススメです。
あと、未読でしたら、ネタバレ被弾するまえに「星降り山荘の殺人」を。上手に騙されると良くも悪くも忘れられない作品になります(笑)

「占星術殺人事件」は一回は読んでおかないと!な作品ですが、ちょっと読みにくくて、わたしも停滞しそうになりました。勢いで乗り切った思い出が(^^;)

昨夜、kwosaさんにお返事を書かせていただいたあとに思い出したのですが、光文社文庫の「本格推理」はお読みになってますでしょうか?
昔3、4冊読んだきりなのでラインナップなど忘れてしまったのですが、kwosaさんなら掘り出し物(作家)を見つけられるのではないかなーと思います。
それと、ロジックにこだわらないなら、北森鴻さんと若竹七海さんもおススメです。

と、またしても長々と申し訳ありません。
近頃ミステリ離れしてると思っていたけれど、やっぱり好きなんだなぁと再認識させていただきました。本当にわたしばかりトクしてますね(笑)

kwosaさんのコメント
2013/06/30

九月猫さん!

>早速こちら、購入してきました♪

わお、仕事がはやい!
でも、もしお気に召さなかったらどうしよう。
ちょっと責任を感じてしまいます。
「手ごろ」の基準、とってもよくわかりますから。

倉知さんの「壷中の天国」も気になるリストに入っています。
現在の版は上下巻分冊でなかなかのボリューム。
ちょっと腰が引けていたのですが、他ならぬ九月猫さんおすすめとあらば、これはチャレンジのしがいがありますね。読んでみます。

そして「星降り山荘の殺人」
被弾しましたー(泣)
いつか読もうと楽しみに積読しておいたのに。
そう、まさにブクログの、もろ、そういう名前のスレッドにて......
読んだ自分がいけなかったのです。
ネットでのミステリ系のそういうところは極力見ない!
そして気になるミステリは、時間をおかずに片っ端から読む!
これしかないんですよね。
(でも、ミステリの話で盛り上がりたいんですよね。
九月猫さん! 「あまりお役に立てる紹介ができなかったのに」なんてとんでもない。
本当にこちらのほうがトクをして、楽しませてもらっています。)

光文社文庫の「本格推理」は未読ですが、これも気になっていたんですよね。
なんだか一気に読みたい者が増えて、わくわくしてきました。

僕自身もそこまでミステリには興味がないと思っていたのですが、こうやって九月猫さんとお話しさせて頂くと
「あっ、実はかなり好きだったんだな、ミステリ」
と、今更のように気づきました。
ありがとうございます。

kwosaさんのコメント
2013/06/30

九月猫さん!

「星降り山荘の殺人」の件はうっすらネタバレなので、もしかしたら知らないことがいっぱいあるのかもしれません。
だから、あきらめずに読んでみます。
なので内容に関しては秘密にしておいてくださいね。

九月猫さんのコメント
2013/07/01

kwosaさん、こんばんは♪

現在2冊同時読み、しかもレビュー提出締め切りありが1冊・・・なのに
この本に眼がいってしまって仕方ありません(笑)
早く読みたいーーっ!

うわあ、被弾しちゃってましたか>星降り山荘。
それは・・・ご愁傷様です(T_T)
kwosaさんが、何をどれだけ知ってしまわれたのか、気になるところです。

あちこち見ていただくのは申し訳ないので
(わたしの方はレビューなしの登録だけのページですし)、
司凍季さんのこともこちらに書かせていただきますね。

>司凍季さんの作品で「まずはこれ!」と目をつけている物

一尺屋遥シリーズを順番に読もうと思っています。
一作目の「からくり人形は五度笑う」は出た頃に一度読んでいるのですが、
もう忘却の彼方なので(^^;)初読のつもりでそれから読もうかな、と。
横溝正史がミステリの原点なので、横溝テイストに弱いのですが、
司凍季さんはその辺り、好みでした。
(三津田信三さんも横溝の系譜っぽいので気になっていたのです)
デビュー時の触れ込みも横溝テイスト的なことを書かれていたはず。
探偵の一尺屋遥が、当時の日本のミステリとしては珍しいタイプの変人でおもしろく感じた反面、トリックとかは雑というか乱暴だったような記憶もあります。
実際の横溝作品が好きかどうかはおいといて、横溝作品っぽい舞台立てや筋立てがお好きなかたなら、司凍季作品も好みに合うんじゃないかなーと思います。

あっ、「わたしのマトカ」に花丸ありがとうございます♪
このエッセイ、大好きです。
ブクログに登録して、初めて、レビューを参考にさせていただいて読んだ、ある意味思い出の本なのです。
数日前にkwosaさんが本棚に登録なさってから、kwosaさんのレビューを楽しみにしているところです。・・・って急かしてるみたいでごめんなさい(^^;)
はいりさんエッセイ第2弾の「グアテマラの弟」も、おもしろ素敵なエッセイなので、まだでしたらそちらもぜひ♪

kwosaさんのコメント
2013/07/02

九月猫さん!

コメントありがとうございます。

『星降り山荘の殺人』については、実は主要人物に関するかなり重要なネタバレで(泣)
でも、頑張っていつか読んでみます。

司凍季さん情報ありがとうございます。
いろいろ調べてみたのですが、これまた二作目の『蛇つかいの悦楽』(文庫改題『蛇遣い座の殺人』)が面白そうですね。
でも、まずは一作目ですね。

僕も横溝正史、そして横溝テイスト大好きなんですよ。
まさにちょうどいま、横溝正史の『蝶々殺人事件』に取りかかっているところです。
ひさびさの横溝作品ですが、いやあこれは面白いですよ。

『わたしのマトカ』最高ですよね。
もちろん『グアテマラの弟』も読みますよ。
初めてのエッセイとは思えぬ、片桐はいりさんの文章力。
いっきにファンになりました。
「面白い、最高、読んでー」って気持ちはあるんですけど、なかなかレビューが書けずにいます。

沙都さんのコメント
2015/05/14

kwosaさん

コメント失礼いたします。

『「わたしをぉ、殺したのはぁ......おまえだよっ!!!」
「ぎゃー」

こんな怪談が子供の頃に流行ったが、犯人指名のシーンで次の頁をめくった瞬間、この感覚に似た驚きと恐怖を味わった。』

このレビューが本当に的を得ていると思います。自分もこの本を誰かにすすめる機会があれば、この言い回しをぜひともお借りしたいところ…

kwosaさんおススメの『首無~』の方もまた読んでみますね!

kwosaさんのコメント
2015/05/18

とし長さん

コメントありがとうございます。

ほんと、怖かったですよねぇ。
件の言い回し、どうぞどうぞ使ってください。
多くの方の読んでいただきたいですね。

そして『首無』は是非に!!

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