弱者とはだれか (PHP新書 83)

著者 :
  • PHP研究所 (1999年8月4日発売)
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感想 : 39
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 評論家の小浜逸郎(こはま いつお)が1999年に刊行した新書。テーマがでかいのに議論の準備が不足している生煮えの本。
 本書では、(社会的弱者や周辺にある)〈空気〉や、タブーについてとりあげる。具体例をいくつか挙げ、一旦建前を外してから、何が適切か・どう捉えるべき、等を考え直そうと試みられている。でも失敗している。

 具体的な問題点ではなく、抽象的なレベルの問題をならべると次の4つ。
  ・観察が足りていない。一面的な見方や偏見そのままでスタートしている。
  ・対象の属する分野、その歴史についての知識が足りない(そして調べない)。
  ・連想を並べているだけなので、文が論理的につながっていない(ここが一番ヤバい)。
  ・各所で一応の結論を出しても吟味していない。また、結論にあたるものがなく、ふわっと終わることすらある。

 本書は著者の一面的な考えだけであふれているので、類書と併読し、しかるべきのち捨てるべき。

 脱線するが、繊細な話題周辺での自己規制の成り立ち方については、本書よりも、マスメディアにフォーカスしている『タブーの正体!』(ちくま新書)の方がはるかに参考になる。https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480066459/
 こちらの著者(小浜逸郎)が嫌う優先席や聾学校などではなく、大手芸能事務所や暴力団などを対象にして、著者(川端幹人)がリスクをとって得た経験にもとづいて書かれている。賛同するかは別にしても、書籍のクオリティとしては段違いだから、優先度も高い。
 脱線終わり。

 本書(『「弱者」とはだれか』)の末尾では、「弱者は相対的なもの」と凡庸な落ちのつけ方をしており、肩透かしを食らった。のちに、ネット右翼のデマに共感してしまう小浜氏の詰めの甘さが本書にも表れている。


【目次】
目次 [003-008]

プロローグ 009
「おかしい」という感じ/遠慮の構造/マイノリティについて自由に語ろう/イデオロギーを支えるもの/多様な欲望の自由/過剰な情報による強迫観念/ヴァーチャル・リアリティによる混乱/切実さの減少/マス情報を消費する空虚な心

第1章 「言いにくさ」の由来 
1.1 「弱者」というカテゴリー 026
「自明性」への疑い/カテゴライズの杜撰さ/地域振興券のおかしさ/頻発する「強者」の自殺/「優先席」は必要か/「ガラス張り駅」の思想/よい施設、悪い施設
1.2 個別性への鈍感さ 040
情報のファシズム/ことさらな賛美の力学/障害者の努力は普通の努力/知的障害者の厳しい現実/公開拒否は自然な心理/「カミングアウト」は正しいのか
1.3 出生前診断をめぐって 057
出生前診断/ある家族の場合/苦しみは苦しみである/中絶を選ぶ親の心情/中絶は障害者差別につながるか/科学技術に向き合う態度
1.4 『五体不満足』をめぐって 072
ポジティブに語ることの効用/「明るさ」への違和感/「特徴」か「特長」か/聾学校はいらないか/厳しさから目を逸らすな

第2章 「弱者」聖化のからくり 
2.1 建て前平等主義 086
子どもは競争していない/「平等も個性も」の虫のよさ/「子どもの人権」論者の錯誤/過配慮社会/「弱者」は作られる/「弱者」を演ずるための屁理屈
2.2 部落差別をめぐって 097
「しるし」をもたない差別/変わりつつある実態/行き過ぎた優遇措置/「差別」の観念化/「聖化」の共犯的からくり/アイデンティティをめぐるジレンマ/現在の意識では過去を切れない/「差別」は近代の現象/歴史家の良心には意味があるか/「部落史」の罪/小林よしのりの「部落解放フェスティバル」/「部落解放フェス」と「水平社宣言」/二元論的立論の時代錯誤/血統へのこだわりのくだらなさ/「差別」とは何か/気にしなくなること/差別問題を語る重要さ

第3章 「弱者」聖化を超克するには 
3.1 共同性の相対化 140
内部からの問いかけ/「踏まれた痛みはわからない」か/非差別者でなければ差別者か/「ハゲ」「ブス」「デブ」という蔑視/経験と感覚に問い訪ねよ/象のおじさん/中心性の意識の刷り込み/二重の心の体験/林のなかの家/矛盾した意識を簡単に捨てるな/共同性を相対化する構え/『どんぐりの家』個別性を通して見える普遍性/個々の差別の違い
3.2 言葉狩りと自主規制 165
マスコミのおびえ/ほんとうに傷ついているのか/自主規制の現状/政治的な価値評価の限界/「ハゲを差別しろ!」/問題点を整理せよ/メディアの伝播力との関係/筒井段筆問題/『ちびくろサンボ』はいつ差別的とされたか/拡大する「配慮の意識」/言語生活の貧困/差別的ニュアンスの起源/表現の必然性を自覚せよ

第4章 ボクもワタシも「弱者」。 
4.1 既成概念の見直し 192
古い「弱者」枠組み/生産年齢人口の見直し/「老人」や「子ども」へのまなざしを変える
4.2 新しい「弱者」問題 198
エロス的領域の「弱者」/差別と蔑視は同じではない/新しい「弱者」の相対性/「文化的問題」としての立ち上げ/中島義道の場合/「強者‐弱者」関係の流動化/自己決定の拡大とコスト/多元的な共同性を背負う/ミスコンは差別か/多様な接触体験、流動性のある社会

あとがき(一九九九年六月二十二日 小浜逸郎) [320-222]

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 36X.現代社会の問題
感想投稿日 : 2015年12月7日
読了日 : 2013年8月8日
本棚登録日 : 2015年11月16日

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