2021年2月読了『猫のゆりかご』(9784150103538)以来のカート・ヴォネガット作品。
相変わらず独特な書き口を読み進むのが困難で、とりあえず一周読むだけでも丸々一週間かかってしまった。
巻末・伊藤典夫先生の解説に詳しい通り、ヴォネガット氏の半自伝的作品であり、第二次世界大戦下における従軍体験および「ドレスデン爆撃」の現地体験、その予後をビリー・ピルグリムという自身の’アバター’に託して、彼が時間旅行を繰り返しながら至り得た思想を綴った小説、というように私は理解した。
何がどこまで冗談で真実なのかが混濁としているが、通読し終えて改めて冒頭書き出し「ここにあることは、まあ、大体そのとおり起った。」(p9)の一文が強く胸を打つ。
そして、トラルファマドール星人による誘拐体験を経て、「いまの自分の仕事は、地球人の魂にあった正しい矯正レンズを処方すること」(p46)とし、「いずれにせよ戦争とは、人びとから人間としての性格を奪うこと」(p215)という悟りを、戦争を想像でしか判り得ない私たちに伝えている。
「人間としての性格を奪」われた最たる箇所はタイトルにも冠されている、「(捕虜である)アメリカ人は門から五番目の建物に引き立てられた。」「もともとは処理前の豚をまとめる小屋」「住所は『シュラハトホーフ=フュンフ』。シュラハトホーフは食肉処理場(スローターハウス)、フュンフは古き良き5(ファイブ)である。」(いずれもp203)の部分。人道もへったくれも無い。
そしてこういったことは今なお続くロシアのウクライナ侵攻戦争に於いても変わらず行われているであろう事であり、日本ではあまり報じられないが、事実、両国兵士達による戦争犯罪が存在する疑いは非常に濃い。
上手くまとめられそうにないが、この小説が書かれた60年代末のアメリカといえば長期化したベトナム戦争で国内に厭戦気配が蔓延し、若者らが社会の変化を求めてヒッピー文化を花拓かせた時である。
そして、現代日本もロシア問題と同時並行的に北朝鮮ミサイル問題や中国・韓国との外交問題を抱え、続くコロナ禍や不況により将来への漠然とした悲観が漂っている気がするが、こういう時こそ、若者が社会を変えられるんだ!変える!というムーブメントを起こせるように、(既に若者には含まれないかもしれないけど)私も「正しい矯正レンズ」を通して社会や我が身の振りを見つめられる為に自己を整えていきたいし、我が子はじめ後の世代に迷惑を掛けない為にも、レンズが曇ったり割れたりしないように勉強を続けていかねばならないな、と意を新たにした次第であります。
『同志少女よ、敵を撃て』(9784152100641)の時と似た読後感。
30刷
2022.12.24
- 感想投稿日 : 2022年12月24日
- 読了日 : 2022年12月23日
- 本棚登録日 : 2022年12月23日
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