2002年、2004年、2008年とインドのムンパイを訪れ、最下層の貧民街を取材し続けたルポルタージュだが、まるでフィクションのように感じた。
語り方が読み物としてうまいせいもあるが、何より、あまりにも自分の現実と掛け離れすぎていて、実感がわくわかないどころじゃなく、これがリアルだ、と思えないのだ。
蛆と汚物にまみれた路上で垢と傷だらけになりながら薬物に溺れて生きる子供たち。
弱者が弱者から搾取し、憎悪と暴力の連鎖が途切れない世界。
喜捨を得るために子供の目を潰す大人と、他に世界がないため、自分を搾取する大人を慕う子供。
長じた彼らは搾取する側にまわり、女を強姦し、また負を抱えた赤ん坊が生まれる。
救いがないのは、搾取する者も決して富んでいるわけではなく、明日も知れない環境にあることだ。
このヒエラルキーは下層の貧民街の中から抜け出すことはなく、奪っても奪っても生活苦はなくならない。
彼らは、生まれ落ちた時からそう宿命づけられている。
それが現実だということがあまりにも遠い。なんて世界だろう。
自分を省みて比較するとか、そういうレベルを越えて、打ちのめされた。
憐れみよりも、感じたのは恐怖と異質さだ。憐れみを感じるには、もっと近づき、知らなくてはならないんだろう。
インドを少しだけ旅した経験があるが、そんな表面を撫でただけでは知りえない深部があったのだなと思う。
路上の物乞いも見た、垂れ流される排泄物の臭いも嗅いだ、そんなことであの巨大な国を見た気持ちになった自分が恥ずかしい。
こうしたルポルタージュを感情に流されず記し、発表した著者を凄いと思った。
- 感想投稿日 : 2010年6月19日
- 読了日 : 2010年6月19日
- 本棚登録日 : 2010年6月19日
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