人間の叡智 (文春新書 869)

著者 :
  • 文藝春秋 (2012年7月20日発売)
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「新・帝国主義」の世界でどうやって生きていくのか、その生き抜くために必要は「武器」を身につけるには、という本です。
具体的なハックのようなものは少なく世界情勢の現状分析が多いのですが、インテリジェンスオフィサー佐藤優氏の現状分析についてはある程度信頼をおいているので、非常にためになりました。

いままで疎かにしていた「古典を2冊読む」「小説で追体験をする」について興味が出てきた。

【なるほどな点】
・つまり、今の不況や雇用の問題は、日本人の賃金が(同じ作業をしている)中国人の賃金と同じまでに下がらないと解決しないことになります。(P14)
・新帝国主義の世界では、大国間の戦争は防げるでしょうが、帝国主義の時代と同様国家の生存本能がむき出しになってきます。相手国の立場などを考えずに、自国の利益を最大限に主張する。相手が怯んで、国際社会が沈黙すれば、横車を押す。そうして権益を拡大して行く。(P24)
・TPPは新・帝国主義の時代において、アメリカと日本が提携して中国との間に壁を作る「枠組み」として浮上してきたのです。(P32)
・中国はネーションビルディング(民族形成)のため、日本を敵のイメージとして利用している。(P44)
・民意があの国をやっつけろと言って、その民意に反することができないのだったら戦争を防げない。(中略)ところが「王」がいれば民意がなんと言おうと王が決める、(中略)問題は解決するわけです。(P50)
→その点でいえば、支那では民意は関係ないわけだし、日中戦争の危険性は少ないのだろう。
・アメリカからすれば、中国が航空母艦から飛行機で沖縄を爆撃できるならば、海兵隊をおいておくには近すぎるので危険です。そのときは普天間基地も、沖縄県外に移設される可能性が相当に高まります。(P54)
・民主主義の起源は、良き者を選ぶというより、悪しき者を排除することなのです。(P65)
・各国が自国の利益をむき出しに帝国主義の論理で行動し、そこにゲームのルールがわかっていない中華帝国やハルマゲドンを信じているペルシャ帝国が加わっているのが、いま、私たちが生きている世界です。(P124)
・記憶力だけが優れた、試験勉強エリートに頼っていたのでは、日本はもはや国家として生き延びることができないのです。(P124)
・私のいうエリートとは、いわゆる偏差値エリートのことではありません。自分のいる場所を客観的に認識して、それをきちんと言語で説明できるのがエリートの条件です。人間の叡智を備えた人びちのことです。(P157)
・帝国主義は収奪するために常に「外部」を創りだしていかないといけない。(P170)
・ファシズムとは、味方を束ねて動員型政治を展開するところに特徴があります。(その点で橋本氏の政治手法をファシズム的「ハシズム」というのは間違っている。)
・世界が帝国主義化しているなかで、脱原発は言えても脱電力は本当に可能なのか。(P179)
→帝国主義化することにより、外国からのエネルギーを期待する脱原発後の電力政策は可能なのか。
・東京の脱原発集会では、集まっただけで何の要求も突きつけてこなかったので、野田政権は原発再稼働ができると判断したのでしょう。(P182要)
・合意事項は守る、約束は守るというのがいままでの国対政治、日本の政治のルールでした。ところが菅直人前首相が登場して、約束はしたけど約束は守るとは約束していない、ルールを導入したわけです。(P184)
・時代の対で読まれて、常に一定の読者がある知的な遺産には、それなりの道筋、理屈が備わっています。(P209)

【参考図書】
・「父・金正日と私 金正男独占告白」(五味洋治)
・「ファウスト」(ゲーテ)
・「ガルガンチュアとパンタグリュエル」
・「ローマ帝国衰亡史」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 売却済み
感想投稿日 : 2020年9月12日
読了日 : 2014年1月22日
本棚登録日 : 2013年2月2日

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