国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2007年10月30日発売)
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知力を尽くした情報戦、そして、獄中での検察官との対峙、人間にとって、大切なのは、自分を保ちながら、筋を通すこと、そして相手を理解することで信頼関係を得ること
臨場感、細かい粒度、緻密な論理、意を尽くして事に当たれば、なんらかの道が開いていく、そんな思いを感じた書でした。

人間はまず内側から崩れる 決して自暴自棄になってはいけない 常に冷静さを失わないことだ

■外交

鈴木氏は類まれなる「地アタマ」をもった政治家であった
鈴木宗男氏はひとつの特徴があった。恐らく政治家としては欠陥なのだと思う。しかし、その欠陥が私には魅力だった。それは、鈴木氏が他人に対する恨みつらみの話をほとんどしないことだ。

何があっても取り乱してはならない と自分に言い聞かせた。

冷戦構造の崩壊を受けて、外務省内部でも、日米同盟を基調とする中で3つの潮流が形成されてくる
 1 日本はこれまで以上にアメリカとの同盟関係を強化する
 2 アジア主義、地理的にアジア国家であることをもう一度見直し、中国、アジア諸国と安定的な地位を得る
 3 地政学論

政治家は長時間待たせた客のことを決して忘れていたわけではない。内心では何時間も待たせて済まないと思っている。私は逆転の発想で、待ち時間が増えることはその政治家に対して貯金をしていることと考えるようにした。

鈴木邸を辞去するのは午前2時頃で、それからメモを整理し、その時、鈴木氏に依頼された資料を準備する。これが終わるとだいたい朝の4時近くになる。そして、午前9時には、鈴木氏に依頼された資料を届ける。
もちろん鈴木氏とのやりとりの概要は外務省の上司にも報告する。こんな毎日が続いた。

ロシュコフ次官が言う。「佐藤さんはたいへんな愛国者だ。僕たちも愛国者だから、タフネゴシエーターでも愛国者と尊敬するんだよ」

政治家にはスイッチがある。スイッチが入っていない時に、話をもっていっても政治家の頭には入らず、感情的あ反発を買うだけだ

ロシア人とは原理原則を大切にする相手とだけ真剣な取引をするのである

ナショナリズムには2つの特徴がある
 1 より過激な主張が正しい という特徴
 2 自国・自国民が他国・他国民から受けた痛みはいつまでも覚えているが、他国・他国民に対して与えた痛みは忘れてしまうという非対称的な認識構造をもつことである

ロシア人は、信頼する人にしか、お願いをしない

同じことでも言い方によって相手側の受け止め方は大きく異なる お前、うそをつくなよ といえばだれでもカチンとくるが、お互いに正直にやろう といえば、別に嫌な感じはしない、伝えたい内容は同じである

■国策捜査

日本の裁判の現状では黙秘は不利です。黙秘をすると裁判官の心証は「やった」ということになります。実態を話して最後まで否認することです。それをお勧めします

検事は官僚なので、組織の意志で動く。しかし検事も人間だ。この要素を無視してはならない

情報の世界では、第一印象をとても大切にする。人間には理屈で割り切れない世界があり、その残余を捉える能力が情報屋にとっては重要だ。それが印象なのである

クオータ化の原則;全体像に関する情報をもつ人を限定することである 檻の中にいる者には極力情報を与えず、檻の中から得る情報については弁護団だけが総合的情報をもつようにするという考えである

西村検事に対しては、本捜査に関して4点のこだわりを伝えた
 1 国益
 2 特殊情報に関することが外部に出ないようにすること
 3 チームメンバーにこれ以上の犠牲者を出さないこと
 4 私の事件を鈴木宗男氏逮捕の突破口にしないこと

私はプライドこそが情報屋の判断を誤らせる癌と考えている。別にプライドをかなぐり捨てて、大きな目的が達成できるならばそれでよい

自分の盟友を「犯罪者だ」となじり、自己の無罪主張をすることになれば、私と親しくする人々は私についてどう考えるであろうか

人数は少なくてもいい。ただし、ほんとうの友だちを失いたくない

性格だと思う。自分で納得できないとダメなんだ。

クロノロジー(日付順の箇条書きメモ)をつくってこい

情報は人につく

私の記憶術は映像方式だ。手帳のちょっとしたシミ、インクの色を変えること、文字の位置を変化することで記憶を再現する手がかりが得られる

外交に触れたばかりの政治家は極端な自国中心主義、排外主義的なナショナリズムに陥りやすいが、だいたいこれは一時的現象で、国際政治の現実に対する認識を深めると極端な自国中心的なナショナリズムが日本の国益を棄損するとの認識も強くもつようになる

談合というのは日本の文化なんで、絶対になくならないんです。本気で価格競争でたたき合ったら、会社ももたないし、それに手抜き工事が起きたりしてみんなが迷惑する

国家権力が本気になれば何でもできるのだ

目次
序章 「わが家」にて
第1章 逮捕前夜
第2章 田中眞紀子と鈴木宗男の闘い
第3章 作られた疑惑
第4章 「国策捜査」開始
第5章 「時代のけじめ」としての「国策捜査」
第6章 獄中から保釈、そして裁判闘争へ
あとがき
文庫版あとがき
解説 川上弘美

ISBN:9784101331713
出版社:新潮社
判型:文庫
ページ数:560ページ
定価:850円(本体)
発売日:2007年11月01日発行
発売日:2008年04月25日7刷

読書状況:いま読んでる 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年10月31日
本棚登録日 : 2023年10月22日

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