藤原道長の権力と欲望 「御堂関白記」を読む (文春新書 915)

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  • 文藝春秋 (2013年5月20日発売)
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今年の大河ドラマ「光る君へ」の予習としてまずは1冊。初回放送に何とか間に合わせて読了。著者はこのドラマの時代考証を担当している倉本一宏氏。増補版は道長と紫式部の関係を補章として書き足したとのこと。もともと『御堂関白記』や『小右記』『権記』などの「古記録」(古代史、中世史?ではそう呼ぶらしい。少なくとも近代史では聞かない言葉)を研究されてきた方なので、本書の内容もそうした古記録を読み解きながら、不慣れな読者にもわかるような道長像を提示しようとしたものとなっている。なお『藤原道長の日常生活』(講談社現代新書、2013年)『藤原道長「御堂関白記」を読む』 (講談社学術文庫、2023年、オリジナルは講談社叢書メチエとして2013年)が、著者の「御堂関白記」三部作らしい。 国際日本文化研究センターではこのような啓蒙書の叙述が励行されているとのエピソードも書かれていて興味深かった。普通、研究者はそんなの書いている暇があれば論文を書けと言われるものなので(苦笑)。

本書も「啓蒙書」の類ではあるが、古記録資料を縦横に利用して当時の平安貴族の頂点に立った道長の実像を提示しようとしている。道長をはじめとした上流貴族たちが日常的に関心をもったことは、ずばり「人事」。これに尽きる。権力=人事であり、天皇の外戚として一族の繁栄を恒久のものにしようと日夜努力していることがよくわかる。しかし、この時代の人事は女性の出産という天命にも大きく左右される。著者が述べているように姉の詮子(せんし、あきこ。円融天皇の女御。一条天皇の生母)がいなければ道長の出世もなかった。さらに詮子が生んだ一条天皇(道長にとっては甥)に自分の子どもの彰子(一条天皇とは従兄妹関係)を入内させ、一心にその懐妊・男子生誕を祈る。兄の道隆の娘(定子 ていし、さだこ)も同じく一条天皇に入内しているので、必然的に兄弟、従姉妹の争いということになっていく。紫式部は彰子に仕える女官で清少納言は同じく定子に仕える女官。後宮内での女性同士の「戦い」も結局は「人事」を軸に展開していくのである。『源氏物語』が日本が誇る文学作品であると同時に一条天皇の関心を惹くために道長が利用した道具のひとつであるということもまた非常に重要なのである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本史
感想投稿日 : 2024年1月9日
読了日 : 2024年1月7日
本棚登録日 : 2024年1月3日

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