源氏物語 A・ウェイリー版1

  • 左右社 (2017年12月22日発売)
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感想 : 17
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かねてより今年のNHK大河ドラマ『光る君へ』を楽しみにしていましたが、再び『源氏物語』現代語訳を読むことは考えていませんでした。初めて読んだのは高校生のころまたは20代前半か、円地文子版の文庫本。当時の感想もほとんど覚えておらず、その後『源氏物語』や関連書籍等に手を出すこともなかったことを考えると、さほど面白みを感じなかったのだと思います。あれから○十年、偶然ラジオでA・ウェイリーの英語訳版からの訳し戻しした毬矢・森山姉妹訳のことを耳にし、姉妹のチャレンジを面白そうと興味を持ちました。
以前読んだ、マルグリット・ユルスナール著『東方綺譚』に『源氏の君の最後の恋』という小品があり、海外の作家が源氏物語に関する作品を描いたことに驚きました。そのユルスナールが読んだのがウェイリー版だそう。また、いろんな言語に翻訳された『元本』になっていると聞くにつけ、「流麗で文学的」と評判のウェイリー版からどんな印象を受けるのか、海外の人達が味わったであろう感覚に近づきたかったのも、姉妹版を読んでみようと思った理由です。

まず、この1巻目を手にして、まずクリムトの絵を使った装丁に目を奪われました。時代も国も越え、こんなにもぴったりくるなんて、読み始める前からワクワク、期待が膨らみました。
読み始めて間もなく、『帚木』の有名な『雨夜の品定め』という箇所。物語が展開するわけでもなく、ひたすら光源氏とその仲間による女性評が続きます。正直苦手、この訳だからなんとか乗り越えられたかもしれません。またほかの箇所でも、普通の現代語訳だと、頭ではイメージ出来ない単語が出てきても、言葉は知っているから何となくスルーした単語が、この作品では思いがけない言葉に置き換えられているので、却って理解が容易いこともあると感じました。その反面、カタカナに置き換えられた単語を再び頭の中で漢字に置き換えるのが面倒だという意見もありました。

訳者あとがきで述べられている通り、姉妹の訳は「A 日本の古文 → B ウェイリー英訳 → A’ 日本語に訳し戻し」 であって、訳し戻しによってA= A’とはならず、普通の現代語訳とは異なるエキゾチックな雰囲気漂う作品に化学反応を起こしています。私にとっては、時に意味がとりやすく、十分楽しめましたしこれも有りだと思いますが、日本語の美しさを純粋に味わいたい人(時)向きではないのでしょう。実際、高校の授業以来、唯一印象に残っている場面ですが、『若紫』の少女が雀が逃げたと祖母に訴える様子、かつて頭に思い描いた光景は、この作品では浮かびませんでした。
まあ、その時の気分で旅行先や着る服を変えるように現代語訳を選択し、違いや変化を楽しむのもまた一興ではないでしょうか。

最後に『源氏物語』一般論として、初めて源氏物語を読んだ当時は、まだ恋多き光り輝く貴公子光源氏が絶対的主人公という捉え方が主流だったように記憶しています。昨今では光源氏との恋に悩む『女君達』の生き様を描いた物語と解釈する見方もあるようです。現代女性の生き方の選択肢が増えるにつれ、光源氏に対する読者の評価は相対的に低くなっているように感じます。
作品に対する解釈も、その時代の世相を反映して変わっていくんだなと、改めて思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年2月23日
読了日 : 2024年2月22日
本棚登録日 : 2024年2月4日

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