来年の干支に合わせて「ねずみ」の登場する話を探していたら、この本を見つけて久々の再読。初版は1977年。
ところが今読み返しても古さは全くと言ってよいほど感じない。
ストーリーテリングの巧さと石井桃子さんの翻訳の良さか。
有名なお話なのでご存じの方も多いかもしれないが、今更ながら載せてみる。
バーバラ・ウィルキンソンさんの家に住むねずみの夫婦。
このめすねずみの方が、他のねずみとは少し変わっている。
それは「今持ってない何かが欲しい」と望んでいること。
それが何なのかは、自分でも分からない。ただ、何かが満たされない。
おすねずみにはそれが不満でもある。
ある日この家で鳥籠に入れられたハトを発見しためすねずみは、餌の調達をしながらだんだん言葉を交わすようになる。
ハトが語る自由な頃の世界はめすねずみの心を惹きつける。
「風のにおい、木々のざわめき、それらが失われた今は生きる意味もない」・・・
ハトが失ったもの、それこそが自分が得られなかったものであると気が付いためすねずみは・・
これは1951年に書かれた作品で、ゴッデンはこのとき44歳。
専業主婦が「ここではないどこか」「これではない、何か」を望むなど、到底理解を得られなかったことだろう。
めずねずみ自身も、自分の気持ちを言い表すことさえ出来ない。
何か新しい体験をしたい、外の世界というものを見てみたい、
そこで新しい自分を発見したい、そしてそれを肯定して生きたい、
そんな些細なことも許されない時代がどんなに長かったことだろう。
ある夜、めすねずみはとうとう行動に出る。
鳥籠を渾身の力を込めて開け、ハトを逃がすのだ。
そんなことをしたら二度と話相手もいなくなると知っていて。
そして、窓の向こうの夜空に輝く星を見る・・
ここのめすねずみの心情とその後の経過が非常に心に残る描写なので、ぜひともお読みいただきたい。
小学校中学年くらいからとあるが、いやいや、これは大人向け。
特に女性の皆さんにおすすめ。
めすねずみに共感しすぎるとおすねずみが悪者になりそうだが、決してそうではない。
彼女を現実に引き戻す重要な役目を担っている。
めすねずみは元の暮らしに戻り、少し変わったおばあちゃんねずみとして孫たちから大変尊敬されることになる。
あの日勇気を出して失ったことで、もっと大きなものを得たのだから。
主人公の心の動きをそれは丁寧に描いた、ルーマー・ゴッデンの名作。
佐野洋子さんは「不義密通の話」とどこかで解説されていたが、そこまで深読みせずとも楽しめます。
- 感想投稿日 : 2019年12月14日
- 読了日 : 2019年12月14日
- 本棚登録日 : 2019年12月14日
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