音楽の在りて

著者 :
  • イースト・プレス (2011年4月23日発売)
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感想 : 61
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思えば、この人の場合、見えるのは常に後ろ姿だったよう気がする。

ラブコメ全盛の少女漫画界にあって、その王道ラブコメも描けば、一方でSFやファンタジーや吸血鬼や心理系も描く。2歩も3歩も先を行くこの人の背中を追いかけついて行くのがやっとで、それが誇らしく楽しかったのだ、読者は。

1977年〜91年の、短篇小説が12本と、漫画が1本。
最初の短篇「ヘルマロッド殺し」と、最後の漫画「左ききのイザン」が呼応する。

「ヘルマロッド殺し」での設定は、1970年代のジョン・ヴァーリイ「へびつかい座ホットライン」やら2001年の平山夢明「テロルの創世」やら、SFとしての作品を経て、今や「わたしを探さないで」の純文学にも使われる設定となっている。「ヘルマロッド殺し」が書かれたのは1970年代終わりなので、その揺籃期に、既にその設定を先取り、共有していたということになる。

読みながら、やはり文字の向こうに存在する絵が見える。漫画が存在していることを感じる。
何の先入観も予備知識もなしにこの作品を読んだら、物足りないのだろうか?
物足りないというのとは違うように思う。文字でしか書いていない、という意味では小説なのだけれど、絵が見えてくる、という意味では、小説でも漫画でもない、その間にある別のジャンルのようにも思われる。

「CMをどうぞ」はちょっとシニカルなオチを用意しているところが星新一のようだし、「守人」はドタバタの感じが筒井康隆のようでもある。「闇夜に声がする」は少々オトメチックでまとまりもいい(タイトルもいい)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: スコシフシギ
感想投稿日 : 2011年10月18日
読了日 : 2011年10月18日
本棚登録日 : 2011年10月18日

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