飢餓海峡(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1990年4月8日発売)
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本棚登録 : 417
感想 : 32
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罪を犯した樽見京一郎と彼を愛した酌婦の杉戸八重。執念で2人を追う刑事たち。戦後社会の混乱の最中、飢えと貧困のなかで生きようともがいた男の必死を世相と重ねながら緻密に描く。松本清張の社会派ミステリーでは犯罪の動機は怨恨や嫉妬だが、水上勉の社会派小説は人間の業とひとりの男を罪に追い込んだ社会環境を立体的に描く。しかし、あとがきにあるとおり、現地にも行かず地図だけで地形から街並み、人の暮らしまでなぜここまで細密に描写できるのか。驚嘆する。1954年に起きた青函館連絡船洞爺丸沈没事故に想を得て書かれた社会派ミステリーだが、作家の想像力、構想力に脱帽。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年5月27日
本棚登録日 : 2023年5月6日

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コメント 2件

淳水堂さんのコメント
2023/05/28

ノブさんこんにちは

『飢餓海峡』は映画を見たことがあります。
犬飼多吉(樽見)が三國連太郎、八重が左幸子、刑事役には伴淳三郎や高倉健。
犬飼は直接殺人は行っていないが状況的には圧倒的に不利だし、「殺してはいないので無実だが、死ねばいいと思ったこの気持ちに対しては罪がある」という気持ちをずっと持っていて、それが八重が訪ねてきたときに最悪の結果になり…
貧困から逃れようとしたこと、罪の意識から善行を積んでも宿命からは逃げられなかったというなんとも切ない話でした。(原作と違ってたらごめんなさい)

映画がとっても濃厚でしたので、原作は読む気力があるかなあ…

ノブさんのコメント
2023/05/28

>淳水堂さん
コメントありがとうございました。
犬飼多吉(樽見)が三國連太郎ですか。豪華なキャスト陣ですね。映画は見たことがないので、一度鑑賞してみます。
原作では捜査する刑事たちが、樽見の罪を憎みつつも彼の生い立ちを知るにつれて善悪の間で揺れ動く心情や戸惑いを赤裸々に語っている姿が印象に残りました。単なる勧善懲悪でないところにこの小説の魅力があります。
お時間がありましたら、是非原作もお読みください。

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