罪を犯した樽見京一郎と彼を愛した酌婦の杉戸八重。執念で2人を追う刑事たち。戦後社会の混乱の最中、飢えと貧困のなかで生きようともがいた男の必死を世相と重ねながら緻密に描く。松本清張の社会派ミステリーでは犯罪の動機は怨恨や嫉妬だが、水上勉の社会派小説は人間の業とひとりの男を罪に追い込んだ社会環境を立体的に描く。しかし、あとがきにあるとおり、現地にも行かず地図だけで地形から街並み、人の暮らしまでなぜここまで細密に描写できるのか。驚嘆する。1954年に起きた青函館連絡船洞爺丸沈没事故に想を得て書かれた社会派ミステリーだが、作家の想像力、構想力に脱帽。
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2023年5月27日
- 本棚登録日 : 2023年5月6日
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コメント 2件
淳水堂さんのコメント
2023/05/28
ノブさんのコメント
2023/05/28