知的障害をもつチャーリイ・ゴードンは、手術を受けることで天才へと変貌することに成功するが……
まずすごいな、と思ったのが手術を受ける前の知的水準の低いチャーリイと、手術後の天才へと変貌したチャーリイの内面を見事に描き切っているということ。チャーリイの経過報告という手記形式で進められる本編は、手術前はひらがなだけで書かれていて、非常に読みにくいのですが、手術の結果が表れてくるに当たり、漢字を使うということはもちろんのこと、思考や概念すらも徐々に変わっていった、ということをしっかりと分かるようになっています。原文も素晴らしいのでしょうけど、翻訳も素晴らしい出来なんだろうなあ、と思います。
そして天才となったチャーリイは徐々に以前では考えることのなかったこと、気づくはずのなかったことについて知ってしまいます。
たとえば人間が本質的に持ってしまう、自分と異なるものを排斥しようとする思考、善意も悪意も持ち合わせる人の本質、そして自我……、読んでいくうちに自分がいつの間にかあまり考えなくなってしまったことについて思いを巡らせました。
チャーリーがこうした考えを持つようになったのは、急速に脳が成長していくのに対し、精神面はそれに追い付かないため。一歩一歩成長していくことの大切さ、難しさというものを考えました。
そして終盤はチャーリイは天才になってからの自分と手術を受ける前の自分についていやが応にも考えることになります。
チャーリイの物語は悲運の男の話としても読むことができるようにも思えますが、個人的には初めて社会や自己の世界へ冒険に出かけた人間が、また自分の居場所に帰ってくる物語のように思えました。静かに閉じられるラストが、その冒険の終焉をこれ以上ないくらい表しているような気がしてなりません。現代の聖書(バイブル)と呼ばれるのも納得のいく物語でした。
ネビュラ賞受賞作
- 感想投稿日 : 2013年5月12日
- 読了日 : 2013年5月12日
- 本棚登録日 : 2013年5月5日
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