世界文学史の多くに載っているこの『すばらしい新世界』、ずっと昔から書名は知っていたものの、高校生当時本書はどこでも手に入らず、図書館でも見つけられなかった。
とうとう文庫化され、たくさんの日本人に接しやすい状況になったわけだが、読んでみて愕然とするほど、面白かった。1932年の小説で、当然古臭いのだろうと予想していたのに、古びた感じはまったくなく、つい最近書かれたと言われたら騙されてしまいそうなほど清新である。現在の日本の読者がこれを読んでも「ふつうに面白い」ことは間違いない。
全ての出産は体外受精に制限され、初めから人間は5つの階級に分類されており、生まれてすぐに人為的に成長を抑制されるなどし、睡眠学習によって特定の倫理を洗脳的に植えつけられる。
いわゆる管理社会の極限で、SF的でもあるのだが、細部が非常によく書けている。
このディストピアはきっと全体主義の思想に基づいて組み立てられているのだろうが、あからさまにソ連をモデルに書いたジョージ・オーウェルとは違って、こちらはかなり諧謔に満ちている。人間を条件反射的にしつけようとするスタイルは、当時台頭してきていたのだろう、パブロフや生理学的心理学の姿勢を参考にして書かれているようだ。
面白いことにこの管理社会による人間の「しつけ」は相当うまく行っていて、みんなが「幸せ」であるようなのだ。
ちょっと前衛的な書き方もあったりして、このオルダス・ハクスリー、生半可な小説かじゃないぞと思われるのだが、ほかの著書は全く知らない。
とてもよくできた小説だが、最後の方の顛末は、個人的にはあまり好きになれなかった。ジョンがあまりにもシェイクスピアばかり引用するのがうざいし、ラスト部分のプロットも、こうでない方がいいような気がした。
しかしそこはたまたま個人的にそう感じただけかもしれない。全体としては、実によく書けた、すばらしい小説です。
- 感想投稿日 : 2019年4月28日
- 読了日 : 2019年4月28日
- 本棚登録日 : 2019年4月28日
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