長編二篇、一冊の短編集を経てからの今回の『思い出』。
ベイカー街221Bに問題を抱えた依頼人が飛び込んでくる。彼、彼女らの話をじっくりと聞きながら探偵は思考を巡らせ、助手は筆を執る。『思い出』の中でも変わらず、ホームズとワトスンの普段通りの日々が描写されている。
――筈だったのが、最終篇の「最後の事件」では唐突な幕切れに出会う。
物語の中に突如現れたモリアーティ教授と彼の率いるロンドンの裏組織。彼らとホームズとの因縁がと決着とが語られる「最後の事件」は設定等少々唐突で、ともすればこのシリーズ全体に対してどこか素っ気ないまでに呆気ない印象も抱くが、そういったものから当時のドイルが如何にホームズ物を終わらせようとしていたのかがよく伝わるような気もする。
唐突かつ存外あっさりと物語から「退場」してしまったホームズではあるが、仮にこれを最終回とされてもそれはそれで「アリ」な気持ちにもなるから面白い――とはいえこの後にも「ホームズ物」に続きがあることを知っているからこそそう思えるのかも知れないが。(「海軍条約文書事件」だってそれまでの短編と同じ雰囲気で書き上げられていて、「次の号でもきっとホームズとワトスン君のこういう日常は続いていくのだろうなあ」と楽しみに思いながら次の号を読んだら「ハイこれでホームズ物語は終わりですよ、今までのご愛読ありがとうございました」とつっぱねられた当時の読者はそれは驚いただろうなあ……)
結局この後ホームズは再びベイカー街に戻ってくることにはなるのだが、「死んだと思わせておいて、実は生きていました」という、あまり多用されると「なんじゃそりゃ」という気持ちになってしまいかねない技法を使われても「あのホームズなら有り得る話ではある」と思わせてしまうようなキャラクター性は凄い。
今回の『思い出』、特に「最後の事件」を読み、(今後の展開も視野に入れつつ)「やっぱりこの作品はメイン二人のキャラ立ちが素晴らしいなあ」という思いをより深めることになった。
- 感想投稿日 : 2018年2月14日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2018年2月14日
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