ユダヤ人高利貸しのシャイロックを悪役とした勧善懲悪ものの喜劇。
大きな筋としてはバサーニオとポーシャの結婚と裁判の二つであるが、他にも細かな話の筋がいくつも挟まれ、それらがテンポ良く展開していく。本筋に絡んでくる人物が、話の長さの割にたくさんいる印象があったが、読んでいて混乱することはなかったことに驚いた。
随所に皮肉が効いており、アントーニオが命を賭けて借りたお金が貧乏人のバサーニオには大金なのにポーシャには端金であったり、裁判で白熱して目の前に変装した妻がいるにも関わらずアントーニオを助けるためには妻の命を差し出してもいいとバサーニオが言ってしまったり、シャイロックがアントーニオを責めたのと同じ論理で負かされたりと、クスッと笑える場面が多かった。
箱選びの時に、他の人が選ばないような箱をバサーニオが選んだことに、アントーニオからお金を借りていることが理由付けになっているのかなと思った。また、これは穿ち過ぎかもしれないが、ジェシカが駆け落ちする時の男装が裁判の男装の伏線になっているのかもしれないとも思った。
ただ脚本だから仕方ない部分もあるが、裁判の時に助けてくれた人が実はポーシャとネリサの男装だったというどんでん返しが、台詞の役者名がそのままで上手く働いていなかった。これは実際の舞台ではどうなっているのか見たくなった。
ヴェニスの商人と言えばしばしばシャイロックの扱いについて議論されることがあるが、私はこれは差別ではなく時代背景も相まって芝居の中でそういう悪役の役割だったというだけだと思う。アンパンマンのバイキンマンに同情する人が少ないのと同じで様式美ではないが、物語上そういう役回りの人が必要で、その時代では丁度良かったというだけだと思う。シェイクスピアはユダヤ人を見たことがなかったという話もあるし。まぁ私がユダヤ人だったらあまりいい気はしないのは確かだろうが。
- 感想投稿日 : 2023年2月25日
- 読了日 : 2023年2月25日
- 本棚登録日 : 2023年2月25日
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