和辻倫理学を読む もう一つの「近代の超克」

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  • 青土社 (2010年8月24日発売)
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和辻倫理学を批判することは容易そうに見えるにもかかわらず、なぜか難しい。批判しようとすると、ナショナリズム的傾向を外から告発するイデオロギー批判になるか、「他」を「他」として論じていないというないものねだりに終わるか、あるいは単に事実の誤りを指摘するだけになってしまう。

本書の著者は、和辻倫理学の言説の構成を解明することで、和辻哲郎という「手品師の手さばき」の「たねあかし」をおこなっている。

とりわけ、和辻のマルクス解釈、アリストテレス理解、解釈学受容を論じた前半の議論は鮮やかだ。「倫理とは何であるか」という問いから始まり、私たちの伝統における「倫理」という言葉の意味を掘り起こしてゆくことで「人と人との間柄」として「倫理」を規定する和辻の議論が、「仕掛けをすでに手中にしている手品師が見事な手さばきで人びとの面前で手品をして見せるように、解き出す答えをすでに手中にしている和辻が見事な解釈の手さばきを読者の眼前で見せ」るような構成をもっていることを、著者は明らかにしてゆく。まさに手品の「たね」を鮮やかに読者に示すスリリングな議論になっている。

本書の後半では、和辻の倫理学における「市民社会」の欠如が指摘される。和辻の倫理学にはヘーゲルの「人倫」(Sittlichkeit)の影響が色濃く認められる。だがヘーゲルの「人倫」は、市民社会における公共性の形成をくぐり抜けたものだったのに対して、和辻は近代経済社会における自由で平等な個人を間柄からの離脱と考え、あまりにも性急に全体性へと回収してしまう。さらに著者は、こうした市民社会に対する和辻の批判のうちに、アングロ・サクソン的国家と構想する昭和日本の世界史的使命という倍音を聞き取っている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本近現代哲学
感想投稿日 : 2010年9月30日
読了日 : -
本棚登録日 : 2010年9月30日

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