下巻に入り、読み方をつかんできたこともあってだいぶ物語を楽しめるスキーマが頭の中にできる。
展開的にも、結末へ向けてぐっと動いていくところなのでどの章にも躍動感が出てくる。
ただ、それでもやっぱりものすごい読み応え。この物語は、この写真を偶然デトロイトで見かけた「私」、写真の中に写る農夫たち、理系の雑誌編集者であるメイズの視点でそれぞれ語られつつ、彼らの物語が一つの場所で交差し、そしてそのときに解説で論じられるところの「20世紀全体」の輪郭がくっきりと浮かび上がるという形式になっている。
とりわけ「私」が語る認識論にも似た写真論は、少なくとも私には再読必至。一度読んだだけではその半分も理解できていないと思う。
とにかく圧倒的な思索。思索の中に光る、エスプリのきいたアイロニー。
読み終わって、ああやれやれ、と思うと同時に、いい文章を読んだなあという満足感。
これ、原文で読んだら半年くらいかかるんだろうなあと思うと、こんな素敵な翻訳に仕立てた柴田先生に感謝。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年8月3日
- 読了日 : 2023年8月3日
- 本棚登録日 : 2023年7月15日
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