砂漠の惑星 (ハヤカワ文庫 SF1566)

  • 早川書房 (2006年6月1日発売)
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感想 : 28
4

琴座系のはずれにあるレギス第三惑星。そこは砂に覆われた無機物の惑星。宇宙船無敵号は、かつてこの惑星の調査のために訪れるも消息を絶った宇宙船コンドル号の捜索を目的に、不毛の大地に着陸する。主人公ロハンを含む調査隊は、早速捜索を開始。やがてコンドル号とその乗組員の遺体を発見するが…

本書は単なる未開惑星での冒険活劇ではありません。登場人物は(無駄に)多いのですが、その内面については、主人公のロハンや無敵号の隊長ホルパフでさえ、中途半端な描写があるぐらいで、個々に焦点があたることはありません。いわゆるドラマが見あたらず、時には冗長な説明が続くところもあり、退屈に感じる場面もちらほら。しかし、それでも本書に魅力を感じるのは、レム自身も評するように、本書が「文学作品」であるためです。その片鱗が見え隠れする中盤以降は、思いを巡らせながら読み進めることに。最後の章では、レム自身が込めた思いを超えて、深く考えさせられることになりました。

さて、レムが本書で表現した思想は、訳者あとがきにて、レム自身の言葉で読むことができますが、ここでは割愛。
個人的には、砂漠と機械の世界では人間のいわゆる理性が異質であり、最後の章で表現されたその理性がなぜか滑稽で無駄なものに思えてしまいました。これはレムの考えとは逆行するんだよなぁ…
もうひとつ。終盤、砂漠の惑星の脅威に対抗しようとする無敵号の科学者を横目に、ロハンは思案に耽ります。このロハンの思い(下記にて引用)は、レムの思想を深く反映していますが、それと同時に、執筆当時(1962~1963年)のいわゆる冷戦下、核武装による軍備拡張の世相を痛烈に批判しているように感じて止まないのです。

「われわれの行く手に立ちはだかっているのは、誰かの目論見でも、誰かの敵意でもない。単に生命のない自己組織の動きにすぎないではないか……そんなものを抹殺するために、ありったけの武器やエネルギーを消費する必要がどこにあるのだろう?」
「宇宙には、このように、人間の理解を超えた気味悪い現象が、どれほど多く秘められているのかわかったものではない。しかし、だからといって、われわれは、われわれの知識の尺度では計れないすべてのものを撃破しつくすことを目的にして、どこへいくにも強力な破壊兵器を積んでいかなければならないのだろうか?」
「われわれはわれわれの武器や機械をあまりにも過信していた。だからこそ、取り返しのつかない過ちをおかしてしまって、いまその報いを受けているのだ。悪いのはわれわれだ。悪いのはわれわれだけだ。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2014年11月15日
読了日 : 2014年11月15日
本棚登録日 : 2014年11月15日

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