憑霊信仰論 妖怪研究への試み (講談社学術文庫)

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  • 講談社 (1994年3月4日発売)
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日本における憑依(「つく」)現象を人類学的視点から分析、日本文化の真相の解明を試みる書。従来までの日本民俗学における憑きもの論の再検討、及び新たな分析モデルの構築を通して、日本人の奥底に潜む情念の世界――日本人の世界認識の仕方・価値方向の位置づけについてを考察する。
本書は、著者が1972-82年の間に出した論文八篇を一冊の本にまとめたものである。今日妖怪研究の第一人者として知られる著者が本格的に妖怪研究へと舵を切り始めた時期に執筆されたこれらの諸論文は、従来までの日本民俗学による研究視点に再考を促しつつ、人類学の視点から新たなモデルを提示する刺激的なものとなっている。本書は石塚尊俊ら先行する日本民俗学の憑きもの研究への批判から始まり、憑きものを中心として高知物部のいざなぎ流、陰陽道、護法、妖怪といった日本人の「闇の世界」を論じていく。
本書において中核をなす憑きもの論の特徴は、「憑きもの」(「つく」)という概念の定義を大幅に広げ総括的な研究を説いたことにある。「憑きもの(つき+もの)」とは説明のつかない現象に対し"みせかけの"説明を与える為の言葉であり、それ自体には特定の意味を有さない空虚な概念である。それは宗教者によって具体的内容が決定されるが、あくまでもそれ自体には善悪の価値判断は存在せず、また人のみならず家などにも憑き得るものである。それ故に憑きもの研究においては、憑きものを巡る社会の構造などを踏まえた総括的なものでなくてはならない。著者のこの憑きもの論は、先行する憑きもの研究の視点を踏まえその限界を乗り越えようとする総決算的なものに思えた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 妖怪
感想投稿日 : 2019年1月2日
読了日 : 2019年1月1日
本棚登録日 : 2019年1月2日

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