ピカソになりきった男

  • キノブックス (2016年8月17日発売)
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贋作と模倣
その違いは何なのか?

2005年に逮捕された名画の贋作作家・ギィ・リブの手記
娼館で生まれ育った少年が贋作作家として生きていくようになったきっかけから、華やかでダークな絵画のダークな側面、そしてなんとその才能を生かして映画界へデビューしていくまでを描いている。

ある美術評論家に「ピカソが生きていたら彼を雇ったであろう」と評されたギィ・リブ

彼の贋作のすごさは名画のコピーを作ることではない。
巨匠になりきってそのタッチで新作を生み出すことなのだ。
ギィの絵を見たいと思ったけど、この本には写真が一切ない。
彼の贋作は全て没収&破棄されたからだという。
でも、彼いわく「いくつかは美術館やギャラリーで本物として流通している」のだとか。

この本はある贋作作家の人生を描いているのだけど
その片方で美術界のビジネスの恐ろしさやカラクリなどが描かれていて、美術マネーの恐ろしさやそれに群がる有象無象、美術愛好家をくいものにする人々の恐ろしさを描いている。

ギィは逮捕されてから、その天才的な、なりきり才能を認められルノワールの映画の美術担当の仕事をすることになる。
そんなイイ話もあってよかった…なんて思う。

なんだけど…ラストちょっと切ない。

様々な巨匠になりきって他人の絵を描いてきたギィ
しかし、何にもなくなってあらためて「素の自分の絵」を描いてみるとそこには何もなかったりする。
誰にも評価されず、でもって耳元では
「まだ他の巨匠の絵があるんじゃない?」
なんてささやかれたりする

失ったものはオリジナリティー
それは、芸術を中心に生きてきた人間にとっては
恐ろしすぎる代償である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年6月29日
読了日 : 2020年6月29日
本棚登録日 : 2020年6月29日

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