太宰治と人気漫画家の紗久楽さわさんのコラボ作品。
「葉桜と魔笛」
切ない、姉妹愛を感じる作品でした。
主人公である老婦人の、三十五年前の回想という形で進む物語。
二十の主人公は既に母を亡くしていて、中学校長である頑固で厳格な父親と十八の病弱な妹と三人暮らし。
妹の死期が迫り、ただ側で黙ってみていることしか、できない主人公は気も狂わんばかりに苦しんでしまっていた。
日本海大海戦で、軍艦の大砲の音が絶え間なく響いてくる時代の最中でも、ただただ妹の事ばかりしか考えられない状態。
そんなある日、妹の箪笥の中に恋人と文通していたらしい手紙の束を密かに発見する。
当時、自由な恋愛などできない時代なので、はじめは自分まで浮き浮きした気持ちでいたのだが、最後の手紙の内容には、雷電に打たれたときのような衝撃を受けてしまう主人公。
そしてある行動を起こす。
妹の為に…!!
途中で出てくる妹の台詞がなんとも切なかったなぁ。
「ああ、死ぬなんていやだ。
あたしの手が、指先が、髪が可哀そうー」
まだ若い女性である妹の心の叫びは…たまらない。
そして時々
姉として、女性としての主人公の複雑な心理も、垣間みれるような部分もあって…
なんともいえない、切なさも感じた。
魔笛についても幾通りか考えさせられて、あとを引く読後感。
葉桜の奥から聞こえてきたという軍艦マアチは、まさに魔笛という表現で、しっくりくると思った。
魔笛の謎はどうあれ、それで姉妹はそれぞれ救われたのだといえると思う。
じんわりあったかい気持ちになった読後感は良かった。
「葉桜のころになれば、私はきっと思い出しますー」
主人公が年老いてから語るという構成も素晴らしい。
このタイトルも素敵。
- 感想投稿日 : 2023年7月23日
- 読了日 : 2023年7月23日
- 本棚登録日 : 2023年7月23日
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