不当逮捕 (講談社文庫)

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  • 講談社 (1986年9月8日発売)
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感想 : 10
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昭和32年(1957年)10月24日、読売新聞社会部記者の立松和博は逮捕される。国会議員を売春汚職に関連していると実名をあげて報道したことが、名誉棄損にあたるとしてのものである。しかし彼の逮捕の背景には、検察内部の権力争いや、政治家と検察の癒着等があった。彼の逮捕は不当であるとして、マスコミこぞっての抗議が起きるが、読売新聞は彼に冷たかった。彼の逮捕を新聞で丸一日報じなかったのだ。その後、名指しされた国会議員は結局逮捕・告訴されず、少なくとも公的には汚職の事実はなかったことになり、読売新聞は間違いを認め、記事を全面的に取り消すことを、紙面に大きく掲載する。
立松和博は、戦後の読売新聞社会部のスター記者であり、多くの特ダネをものにしている。その生い立ちや人となりからして、記者としてばかりではなく、輝く存在でもあった。しかし、この事件を経て、立松は読売新聞に裏切られたと感じ(実際に、ある意味で裏切られたのであるが)、麻薬におぼれる。麻薬を断ち切った後も、閑職に追いやられ、かつての輝きを取り戻すことのないまま、昭和37年(1962年)10月、事件から5年後に亡くなってしまう。
筆者の本田靖春は、大学卒業後、読売新聞社会部に勤めることとなり、立松に可愛がられる。この事件についても、立松に近い位置で見ている。本田靖春は、その後、読売新聞社を退社するが、「立松和博を売春汚職とのかかわりを中心にして、いずれ何らかの形で書かなければならない」との決意を果たし、この作品を書き上げる。
本書の発行は昭和58年(1983年)であり、事件から26年、立松の死からも20年以上の月日が経過している。筆者もあとがきで書いているが、それだけの時間を経過しているからこそ、筆者の立松への強い想いを前面に出すのではなく、成熟したノンフィクション作品として仕上がったのだと思う。読みどころは沢山ある。立松という魅力的な人物の物語、事件をめぐる検察内部の権力闘争の物語、検察と読売新聞の闘い、新聞記者とはという話、それらを含めた戦後時代の物語として、等々。どのように読むかは読者次第であるが、ノンフィクションではあるものの、私は小説のように読んで楽しんだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年9月20日
読了日 : 2023年9月20日
本棚登録日 : 2023年9月16日

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