すべての見えない光 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社 (2016年8月26日発売)
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本棚登録 : 1460
感想 : 133
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戦争ものってなんでもお決まりの「悲惨さ」に集約される気がして正直あまり好きではないんだけど、これはすごく良かった。細かい章分けがなされ、目の見えないフランスの少女と、数学や工学に熱中するドイツの孤児の少年の話が同時に進んでいく。連合軍の激しい攻撃を受ける町へ二人が(別々に)いる、という未来が最初に提示されてから、そこに至るまでの二人の運命、砲撃や空爆を受ける町で二人が懸命に生きようとする様子が交互に、切れ切れに進んでいくのだ。二人の運命を手繰るのは、「見えない光」であるラジオで受信する電波信号だ。少女の父親の作る精巧な細工付きの家と町の模型が作中には出てくるが、まさにそのように時系列も場所もバラバラな文章の断片が巧みに組み合わされていて、続きが気になって読むのがやめられずにほとんど一気に読み切ってしまった。このような構成でストレスなく読めるのもすごい。登場人物たち一人ひとりの仕草がリアルに浮かんでくるような重い存在感が、物語を支える。
何より好きなのは、たんたんとして抑制された文章でありながら、自然科学への憧憬と知識に裏付けされた静かな美しさが小説に満ちていることだ。盲目の少女の世界は、におい、触覚、様々な音でいっぱいだ。本で読んだ海の世界を夢見て、危険を冒して毎日、大好きな巻貝がたくさんいる小さな洞窟へ通う。少年の興味は、科学的な光、機械、数学へと向かっている。全くの暗闇にいる脳が、光に満ちた世界を作り出す。数学的には、光はすべて目に見えない。ラジオで聞いた美しく印象的な言葉たちが、少年をやがては戦場へと導く。
「目を開けて、その目が永遠に閉じてしまう前に、できるかぎりのものを見ておくんだ」
このフレーズが何度も作中でリフレインする。そう、できるかぎりのものを見たいし知りたい、と私も思う。そうして鳥の観察にふけっていた少年の親友には悲惨な末路が待ってはいたが。自然であろうと化学であろうと、美しいものはいつでも目の前にあふれているのだし、その見えない光を捕まえるのは私たちの目であり、耳であり、心なのだ。ハッピーエンドというわけではないが、あの作中の宝石が心に沈んでちらちらとその炎を燃やし続けているような、いい読後感のある小説だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年3月19日
読了日 : 2023年3月19日
本棚登録日 : 2023年3月19日

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