ゲッベルスと私──ナチ宣伝相秘書の独白

  • 紀伊國屋書店 (2018年6月21日発売)
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感想 : 31

ユダヤ人を友人として支えている比呂は、きっとたくさんいたのかもしれない。そのせいで、身を危険に晒した人もいた。そういうことを、あとで私は知った。今の人たちはよくこう言うわ。もしも自分があの時代にいたら、迫害されていたユダヤ人を助けるために何かをしたはずだと。彼らの言うこともわかるわ。誠実さから出た言葉なのだと思う。でも、彼らもきっと同じことをしていた。ナチスが権力を握ったあとでは、国中がまるでふぁらすのd-無に閉じ込められたようだった。私たち自身がみな、巨大な強制収容所の中にいたのよ。ヒトラーが権力を手にした後では、全てがもう遅かった。おして人々はみな、それぞれ乗り越えなければならいものごとを抱えており、ユダヤ人の迫害だけを考えているわけにはいかなかった。他にもたくさんの問題があった。戦地に送られた親族の運命も心配しなければならなかった。だからといって全てが許されるわけではないけれど。ナチス自体を別にすれば、そして全く誤った予測をもとにそれぞれの任務を遂行した指導者たちを別にすれば、あれら全てを可能にした原因は国民の無関心にあった。そうなったのは、誰か個人のしえではないと思う。あのころと似た無関心は今の世の中にも存在する。テレビをつければ、シリアで恐ろしい出来事が起きているのはわかる。たくさんの人々が海でおぼれているのが報道される。でも、そのあとテレビではバラエティショーが放映される。シリアのニュースを見たからといって、人々は生活を変えない。生きるとはそんなものだと私は思う。全てが渾然一体になっているのが、生きるということなのだと。あの時代の一部の人々を現代人が非難できるとしたら、せいぜいこんなことかしら。彼らは理想を追い過ぎた。そして、ドイツが良い方向に向かっていると、あまりにも愚直に信じてしまったドイツ人はそれまで、とてもつつましく生きてきた国民だったから。そうして多くの人々は権力を手にした一部の人間がきっと全てを良い方に向けてくれると信じてしまった。それは、祖国への純粋な愛と深遠ゆえだった。P

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ドイツ
感想投稿日 : 2019年10月4日
読了日 : 2019年10月4日
本棚登録日 : 2019年10月4日

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