フラット化する世界 上: 経済の大転換と人間の未来

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2006年5月1日発売)
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自分の訳本『IMS標準テキスト』を買った人はこんな商品も買っています、のリスト(by Amazon.co.jp)に、なぜかこの本が入っているので、気になって読んでみました。ずいぶんと売れているようですし。

導入部分でコロンブスのエピソードから入り、丸い地球は今では平らなんだ、としたところでまず、「丸い方が平等なのでは?」という違和感を覚えました。著者の"フラット"な世界には中心(アメリカ)と周縁(インドや中国)というイメージが含まれているのではないのだろうか、と。そうして本のカバー上部にあるコインの中をよく見ると、アフリカとイスラム諸国あたりを平たくしたものが描かれています。これらの地域は本の中では、"フラットでない世界”として描かれている地域です。そうすると、このコインは実は"裏"を向いていて、見えていない反対側の世界の"表"には、アメリカが中心になってインドや中国が周縁に来ている図があるということを暗示しているのでは、というのはうがった見方過ぎるでしょうか。どうなんでしょう。
また、原書のタイトル『The World Is Flat (世界はフラット)』は、本の中でも十分に認識されている通り、いわゆる"フラット"な世界の恩恵から外されている人がたくさんいる中では、日本語タイトルのように『フラット化する世界』といった進行形のニュアンスが含まれていてもよかったのでは、と感じました。

ここまで少し批判的に書きましたが、この本で言われていることは、時間と距離における世界の縮小であったり、情報アクセス面(発信も含めて)でのヒエラルキーの解消であったり、そのような変化の認識はとても大事なことと思います。ウォルマート、UPS、インフォシス、ウィプロなどの企業の話も取材調査が具体的でさすがに面白く読ませます。こうやって整理してまとめるとあらためて色々と見えてくるものがあります。例えば、ITバブルとその崩壊が結果としてフラット化を促したというところも、本の中で出てくるグローバルクロッシング社だけでなく、あの頃はレベル3社やらウィリアムス社やらがものすごい勢いで国内外に光ファイバーを引いていた状況を覚えているので、単に政策含めて失敗したんだなと認識していましたが、こういうダイナミズムというのも重要だなと思わされました。自分の仕事に関係しているVoIP (Voice Over IP)が第三番目の"ステロイド"としてフラット化を促進する要素として紹介されていますし、情報量が豊富な中盤からは興味を持って読み進むことができました。確かにこの10年~15年のことを考えると、ものすごい変化が起こっているよな、と再確認したところです。

ただ、“グローバリゼーション3.0” というのは用語のセンスとしてもどうなんだろう、ということもあり、やや傲慢さが(個人的には)鼻に付くところがあったというこもあり、星4つということで。

* シスコのマイク・ボルピさんが"流通テクノロジー担当VP"となっています (P.275)。Transport Technologiesの訳? 確かRouting Technologiesだったかと思うが、この本で"流通"って訳すとちょっと誤訳っぽい。ちなみにボルピさんって日本語ぺらぺらです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2009年12月26日
読了日 : 2006年8月26日
本棚登録日 : 2006年8月26日

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