フラット化する世界 下: 経済の大転換と人間の未来

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2006年5月1日発売)
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世界がフラット化した状況や要因を記述した上巻に続く下巻です。

下巻では、上巻に輪をかけてますますアメリカ中心になっていきます。もちろん、アメリカのジャーナリストが基本的にはアメリカ国内の読者に向けて書いているので当たり前なんですが、ちょっと不満なところです。そういう意味では下巻よりも上巻の方が、自分の興味に合う情報が多く含まれていました。この下巻の辺りを読んだ後は、J.E.スティグリッツ氏の『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』などでも再読してバランスを取った方がいいのかもしれません。イスラム諸国やメキシコに対してかなり厳しいのは、白黒をあまりにもはっきり付けたがるアメリカのジャーナリズムのよくない面なんですかね。

フラット化のもたらす環境と認識を共有すれば、インド、中国、アフリカ、アラブの人がみな幸せになる、というような論の進め方を、ビルゲイツの慈善活動の話などを交えてしているところでは、最近読んだJ.ダイヤモンド氏の『文明崩壊』を思い出して、「60億人の先進的な生活を支える資源が絶対的に不足するのでは...」と考えながら読んでいました。すると、そのまま『文明崩壊』を引用して、エネルギー問題についても触れていたので、ちょっとうれしくなりました。ただし、この点に関しては根拠なく楽観的な部分がある上、文脈上でも扱いがまだまだ軽いような感があります ("グリーン"な考え方が重要だとは強調されていますが)。少し長めのスパンで考えると、この問題は『フラット化する世界』では非常に重い課題になってくるように思います。

他に印象に残った点は、新ミドルクラスに必要な人材を挙げた箇所です。要するに今後も先進国にいて給料の高い仕事に就きたければ、グローバルな基準で通用する"まとめ役"、"合成役"、"説明役"、"梃子入れ役"、"適応者"、などの今後必要とされる能力のいずれかを持たないと世界の他の地域の誰かに取って換わられてしまうぞ、ということらしいです。日本には日本語の壁が存在するので、自分の職を他国の人に取られてしまうかもという危機感はアメリカ人の方が切実に感じ始めているのかもしれません。それでも、先進国としての日本にも当然当てはまるところなんだろうなあ、とだんだんミドル層になりつつある身として色々思うところありました。少なくとも年齢や経験によって生まれる能力差異がフラット化している領域が多くなり、いわゆるITリテラシーによる若年層のアドバンテージによって容易に埋められていくのではないかと思うと漠とした不安が生まれてきます。早速、本の中で紹介されていた『ハイコンセプト』(大前研一訳)を買ってきました。

中国やインドが、アメリカ(日本)の後を付いて行こうとしているのではなく、アメリカ(日本)に追い付き、さらに追い越そうとしている、という指摘は重要ですね。

星4つ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2009年12月26日
読了日 : 2006年8月27日
本棚登録日 : 2006年8月27日

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