アブラゼミが姿を消し、ツクツクホウシとヒグラシが夏の終わりを告げる声を聞いて、滑り込むようにこの本を読んだ。日が落ちても暑さが抜けず、生暖かい夜風が肌を撫でる今日のような夜は、この作品の舞台にぴったりだ。
若い男女たちが好きだの嫌いだのとやりあうところに、妖精たちが茶々を入れて一晩中の大騒ぎが始まるというドタバタ物語に、いつしか私も紛れ込み、彼らとともに賑やかな夏の夜の遊びを楽しむと、心なしか私の肌も汗ばんでくる。
この本は、河合祥一郎氏の訳だが、この訳のすごいところは、わかりやすさとユーモアもさることながら、原文の押韻(ライム)をことごとく、日本語に訳しきってしまったところである。さらに、適当に音合わせで訳されているものではなく、実によく考えられた訳になっていて、感嘆の念を抱かずにはおれない。韻を踏むことによって、言葉のコミカルさに加えて、サウンドとしてもテンポが良くなり、読者も観客もグッと劇に吸い込まれてゆく。加えて、これは原文もそうなのだろうが、ファンタジーで話が展開する所は押韻調(英雄詩体)で進み、現実的な展開の所は散文調で進むなど巧妙な工夫がなされているのも面白い。この脚本で上演された『夏の夜の夢』を実際に観てみたくなった。
ところで、この作品の舞台は、注釈によれば5月1日の前夜、つまり4月30日の夜なのだそうだが(だから厳密には「夏の夜」ではなさそうだ)、聞くところによるとイギリスなどでは、夏至の夜には妖精や精霊たちが力を増して現れてくるので、その機にお祭りを催す所もあるらしい。夏の夜の草いきれの中から、様々な妖精がダンスをしながら現れてしばしの夜遊に興じることは、案外、あることなのだろうと思う。
おっと、夜が白々と明けてきたようだ。妖精たちもいつしか帰っていったようだ。そろそろ本を閉じることにしよう。
(2020.8)
- 感想投稿日 : 2020年9月21日
- 読了日 : 2020年8月31日
- 本棚登録日 : 2019年8月21日
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