スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1987年3月25日発売)
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本書の冒頭でキングが書いているが、元々は長編制作の合間に書いた中、短編4作を “Different Seasons” (邦題は「恐怖の四季」) としてまとめたもの。本書はその第1部として秋編と、冬編「マンハッタンの奇譚クラブ」が収録されている。
秋編はスティーブン・キング作 大ヒットした映画「スタンド・バイ・ミー」の原作。
映画がヒットしたので「スタンド…」というタイトルになってるが、原題は “The Body” (死体)。行方不明になった少年の死体を探しに行く話だ。
キャッスルロックに住むクリス、バーン、テディ、ゴーディの4人は仲の良い悪ガキグループ。バーンが不良の兄の話を盗み聞きして、森に行って行方不明になった少年の死体探しに行くことにした。
夏休みも終わりを迎え、この後ある者は進学へ、ある者は地元を抜け出せないまま暮らす人生に分かれる分岐点の少し前、そんな時期の冒険譚を、今は成長して作家となったゴーディが思い出しながら書いている。
そのきっかけは、貧困と虐待に溢れた家と街から抜け出そうとしていたクリスが喧嘩の仲裁に入って命を落としたというニュースを見たからだった。

キングはモダンホラー小説の代表的な作家といわれる。「スタンド…」も、併録されている「マンハッタン…」もホラーというにはどうだろう?確かに死体を探しに行く話や、マンハッタンの方にはちょっとグロテスクな話も出てくるが、ホラーというのとは少し異なる。

僕は初期の頃のキングの長編小説「キャリー」、「呪われた町」、「シャイニング」、「クリスティーン」、「デッドゾーン」、「ファイヤスターター」、「IT」等々が好きで、学生時代に読んでいたが、その頃感じていたことは「他とは異なる者」、「差別された者」、「疎外感を感じている者」(僕はこれらを「異形のもの」と呼ぶ)へのキングの目線だ。
それら「異形のもの」は常に弱者として描かれ、彼、彼女らが虐げられている環境を打ち破るべく復讐に走ったり、追い詰められて危機を脱しようとして行動を起こしたりする物語を父親のように見守る優しい目線を感じるのだ。

「スタンド…」はまさに成長したゴーディ(キング自身)がいじめられていた少年時代を振り返った時の感慨と、自分とよく似た境遇にあって、自業自得や不運によって閉塞した環境から抜け出せなかった自分の分身たち(クリス、バーン、テディ)への哀悼の物語に思える。
「マンハッタン奇譚クラブ」もやはりそういう差別される人々を描いており、その人たちは不運によって悲しく、ある意味非常にグロテスクな結末を迎えるのだが、なんというか、キングにとってそれはグロテスクではなく、「異形のもの」たちが必死に生を全うしようとする姿、その賛歌のようにも見えてくる。そもそも、それをグロテスクな結果に陥れたのは彼ら自身ではなく、彼らを差別する人々ではないのか?と。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(海外)
感想投稿日 : 2019年8月18日
読了日 : 2019年8月18日
本棚登録日 : 2019年7月7日

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