蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1953年6月30日発売)
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ー蟹工船ー
マルクスは労働力の商品化を唱えたが、蟹工船では、労働者(人間) が器と化している。その器とは、「労働」という機能を果たすための器である。家畜ならば、働けなくなっても、 その肉を食らうことができるが、壊れた器は捨てるしかない。なので、蟹工船の労働者たちは、家畜にも劣る扱いを受けている。作者はこれを、ぼかすことなく明確な言葉で、寒々と した海や船を背景に描いている。虐げられた労働者は、少しずつ、抵抗の方法を模索し、こわごわと実行しいく。その中で、大金持ちがその手下を従え、その手下が労働者を絞り上げるという図式に「国」 が加担していることが見えてしまう。手下はここでの労働を「お国の ため」と労働者に刷り込んできたが、「国」は大金持ちやその手下と一蓮托生だ。しかし、 蟹工船の労働者の抵抗は、資本家 VS 労働者という構図よりももっと根源的な、労働者が生き延びて故郷に帰るための行為として捉えられる。当時の労働者の扱われ方の現実、主義、 思想などに絡む重たいテーマを取り上げながら、情景をまざまざと思い浮かべさせる描写の妙、登場人物が語る方言に人間味とユーモアをも含む、質の高い文学作品だと感じた。

ー党生活者ー
題名からイメージされる、活動家たるが故にさらされる緊迫感や、潜伏生活での不自由さやストレスなどはあまり伝わってこなかった。どちらかと言えば、自分たちの活動に懐疑的なところからの自虐的なおかしみや虚しさを感じる。
気になるのは、所々に使われる意味の分からない活動家用語。登場人物たちは、もちろん、言葉の意味は分かっているのだろうけど、その活動がどういう意味を持つのか、最終目的の具体的なイメージは何なのか、その活動はそのイメージに近づくためにどのような位置づけなのか、分かっていないような気がする。その言葉や、その言葉で表わされるアクションに酔って踊っているだけではないのか。更に、彼らは、安全なところでぬくぬくとしている誰かに酔わされ踊らされているだけなのではないか。そんなことすら考えてしまった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2024年1月18日
読了日 : 2024年1月23日
本棚登録日 : 2024年1月17日

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