災害ユートピア――なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

  • 亜紀書房 (2010年12月17日発売)
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感想 : 74
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(01)
全体として単調な綴り方がなされている.20世紀から21世紀にかけて,アメリカ大陸の災害(*02)を中心に記録や聞き取りによって,地獄と化した災害の特殊な局面において起こりつつあったことを,パラダイスないしユートピアという観点から復元している.
取り上げられた記事や証言は,ともすると恣意的なものに映るかもしれない.しかし,それが本書の論旨に都合のよいデータであったとしても,その災害によって人々が受け止めたことが圧倒的な迫力と真摯さをもって,著者を通じて読者に迫ってくる.そして災害を,例えばマスコミの一面的な報道によって,理解しやすいように理解しようとすることが暴力的ですらあることは,本書の読解によって得られる知見でもある.

(02)
災害といっても,自然災害に限らず,2001年のニューヨークほかの9.11のテロリズムも扱っており,本書の主旨としては,自然災害であっても,いわゆる人災がそこには同時に起こっていることが強調されている.都市の危機における都市統治として,コミュニティの自助活動やボランティア支援が立ちあがる様と,政治や社会,経済にわたる政府や自治体による公的な対策とを対立的な図式において把握することを試みている.
都市には文化がある.メキシコシティのカーニバルであったり,ニューオーリンズのデルタブルースであったり,ニューヨーカーたちの日常であったり,北アメリカを横断するような70年代のヒッピー文化であったり,そのような災害のない平時に育まれた文化が,災害時や被災後にどのように社会に活力を与え,ときにはコミュニティの紐帯としての力を発揮するかについての記述も,本書の注目すべき点であるだろう.

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年5月24日
読了日 : 2020年4月28日
本棚登録日 : 2019年5月1日

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