池上彰さんがお薦めされている、しかも珍しくフィクション(勝手な印象ですが、よくノンフィクションをとり上げられているイメージなので)というところに興味をひかれ、はじめてのスパイ小説に挑戦。
主人公は、冷戦下の東ドイツで諜報活動を行っていた初老のイギリス人スパイ・アレック。
宿敵ムントとの戦いに敗れ、全てを失い帰国するものの、復讐のために再び戦いに身を投じる……という筋書き。
要するに、すべての設定が渋めです。
もちろん私の普段のごく平凡な暮らしぶりと何ら共通する要素はないのですが、それでも引っ張られるように最後まで読みました。
とにかく、物語の緊張感がすごい。
冒頭に、「喋らないことも嘘の一種」という一節が出てくるけれど、この言葉どおりの、喋らない、語らないことによる嘘の応酬が、本書の全体を通じて繰り返されています。
それが特によく表れているのが、登場人物同士1対1で展開される尋問や法廷闘争の場面。
個々のエピソードが、緻密に組み合わされて、大きな筋書きを描き出す様子は読んでいて圧巻で。
そして、本書の凄さは、ああ面白かっただけでは終わらない読後感だと思います。
筋書きが巧みであればあるほど、もっともらしいイデオロギーを掲げたって戦争は結局は暴力のぶつかり合いで、誰しもその中ではなすすべがない、あまりに小さな存在であることが胸につきささります。
期せずして終戦記念日近くに読んだ本書。
恐らくは非常に高いクオリティでつくらているNHKスペシャルなどの戦争特集番組も怖くてみられない、気が小さすぎる私だけど。
どんな理由があっても戦争が、暴力が正当化されることなんてありえないのだと、強く感じる1冊でした。
- 感想投稿日 : 2017年8月17日
- 読了日 : 2017年8月12日
- 本棚登録日 : 2017年8月12日
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