オリーヴ・キタリッジの生活

  • 早川書房 (2010年10月22日発売)
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本棚登録 : 562
感想 : 76
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心にしまい込んだ苦い記憶、口にすべきではなかった言葉。知りたくなかった真実。耐えがたい己の自意識。様々なきっかけで、語り手達の心は何度も過ぎ去った過去へ流れ出していく。
そして「心の奥の蛇口が漏れるように泣いて」いても、時間が少しづつ傷口を覆い隠して、暮らしは続いていく。
でもそれは決して絶望ではない。暗く吹雪の冬が過ぎれば、秋に植えた球根が咲く季節がまた巡ってくるのだから。
翻訳者の後書きから「使用上の注意」を引く。
『初めから順にお読みください。順序を乱すと効き目が薄れることがあります。』
『第一篇だけで判断せず、せめて二篇か三篇は服用して、しばらく様子を見てください。』
これは冒頭に書くべきだろう。
僕は五篇目から完全に没頭してしまった。とても感情移入できないと思ったオリーブだが、最後には気持ちが移り悲しみに寄り添っていた。感情を揺さぶる優れた小説だと思う。
最後に、翻訳者を真似てもう一つ注意を。
『読了後の効き目が薄れる前に、第一篇を再度服用してください。』
キタリッジ夫妻の生活は心に深く刻まれ、忘れられなくなるでしょう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年1月21日
読了日 : 2023年1月21日
本棚登録日 : 2023年1月15日

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