危機の二十年――理想と現実 (岩波文庫)

  • 岩波書店 (2011年11月16日発売)
3.93
  • (48)
  • (50)
  • (48)
  • (5)
  • (0)
本棚登録 : 985
感想 : 41
5

国際政治学の原点ともいえる本書。著者は英国外交官であり、学者でもあるE.H.カー。ここでいう二十年は戦間期を指す。1939年原著初版発刊。

1939年当時、ナチス・ドイツの再軍備、日本の中国・東南アジア進出に見られるように、ファシズム勢力が台頭していたという背景がある。カーは本書で、いかに平和的に国際秩序を改革していくかを問うており、それによって戦争を回避することを期待する。これをカーは「平和的変革」と呼称している。結果的に大規模戦争は回避できなかったものの、第二次世界大戦以降も朝鮮戦争を始め、総力戦に近しいほどの激戦が起きており、21世紀になってもウクライナ戦争のような20世紀的な戦争が勃発してしまった。つまり、カーの命題は未だに達成されていないのだろう。

理想主義=ユートピアニズムの虚構を暴くと同時に、現実主義=リアリズムの限界も指摘する。ユートピアンは自国の利益の追求は世界の利益になるという利益調和説を唱える。また、ユートピアンがいう国際的連帯は、世界を統制したいという支配的国家によってなされる。リアリストはこれを喝破する必要がある。ただ、リアリズムも何も生まないという致命的な欠点がある。したがって、カーの結論としてはユートピアニズムとリアリズムの妥協が大事だということである。

経済思想や政治哲学の分野からの引用も多く、学問横断的・学際的な記述が多い印象。国際分野における重要な政治的改革のためには戦争の脅威が必要だという主張には驚かされた。また、パクス・ゲルマニカやパクス・ジャポニカに一定の理解を示しているところも興味深い。カーはイギリス人でありながら、パクス・ブリタニカ、パクス・アメリカーナ、パクス・アングロサクソニカの現実を直視していたようだ。

比較的難しい本ではあるが、国際政治を学ぶのならば1度は目に通しておくだと思った。間違いなく古典的名著。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年3月24日
読了日 : 2023年3月24日
本棚登録日 : 2022年12月22日

みんなの感想をみる

ツイートする