菊と刀 (光文社古典新訳文庫 Cヘ 1-1)

  • 光文社 (2008年10月9日発売)
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今なお「日本人論」の決定版といえる古典的名著。実は大学時代にゼミの教授から「絶対に読んでおきなさい」と言われ、「はい」と答えて放置すること20年。ようやく義理を果たせました。
そう。本書はこの「義理」が大きなテーマです。日本では、義理を果たすことを促す力が強力に働いています。義理を果たさないでいると、妙にそわそわすることがありますね。それはどうやら私たち日本人に特有の性向らしいです。
60年以上も前に著された本書ですが、今もなお売れ続けるのは、やはり時代を超えた洞察力でしょう。今も色あせない、というより、今こそ耳を傾けるべき示唆に富んでいます。
たとえば―。
「アメリカの生活の仕組みにおいては、競争は望ましい社会的効果をあげるが、日本ではそれと同じ水準の効果は期待できない。(中略)心理テストが示すところによると、わたしたち(米国人)の仕事の出来が最高になるのは、競争に刺激されたときである。ところが日本では、(中略)事情が変わってくる。競争相手がいる状況でテストを受けると、成績が落ちるのである」
「誠という言葉は、私利私欲に恬淡としている人を称賛するために、繰り返し用いられている。このことは、日本人の倫理が利益の追求を強く非難していることの現れである。利益は、階層的秩序のもたらす自然な結果でない限り、搾取の結果と判断される」
「中国の当面の目標は軍事力の増強である。そして、その野心はアメリカによって支えられている。日本は、軍事力の増強を予算に計上しなければ、やる気次第で数年のうちに繁栄のための態勢を整えることができよう」
現在、盛んに報道されているTPPを念頭に置けば、次の指摘は実に考えさせられます。
「アメリカ人は、絶えず挑戦してくる世界に対応するために、生活全体の調子を加減する。また、そのような挑戦を受けて立つ構えができている。ところが日本人は、手順通りの図式的な生活様式に支えられて初めて安心するのである。そこでは、見えないところからやって来る脅威が最大の脅威と見なされている」
専門家によれば、明らかな事実誤認や瑕疵が見受けられるそうですし、素人の私から見ても現代の日本人にはそぐわない記述も随所に見受けられます。
たとえば―。
「妻は夫のために人生を犠牲にする。夫は自分の自由を犠牲にして、一家の稼ぎ手となる」
このような自己犠牲の観念は、特に若い世代の多くには理解しがたいことでしょう。
「なぜ夫のために自分を犠牲にしなければならないのか」
「なぜ自分の自由を犠牲にしてまで家族を守らなければならないのか」
そんな反論が容易に予想されます。
しかし、それ以上に本書は、日本人とはどういう性質を持つ国民なのかについて、実に正鵠を射た論考を展開しています。
著されてから60年以上たった今も、日本人はほとんど変わっていないことに気づかされ、喜ぶべきか悲しむべきか、複雑な気持ちになりました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年3月27日
読了日 : 2013年3月27日
本棚登録日 : 2013年3月27日

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