呼びだされた男 (新潮文庫 フ 13-5 チャーリー・マフィン・シリーズ)

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感想 : 8
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 相手の態度からその心の内側を読む方法、などといった内容の本や記事をこのところ目にする機会が多い。周りの人々の気持ちを知りたい、というのは至極当然の欲求なのだろうが、それだけ難しいということの裏返しなのだろう。

 ミステリファンからすればこの手の技術は、数ある主人公たちが見せてくれていた馴染みのあるもの。
 古くはホームズの観察眼に端を発し、次第に時代に合わせた科学的根拠を加えてきた。
 「千里眼」シリーズなどは心理学的な興味から、その部分だけ読んでも興味深い。

 チャーリーはそれを訓練によって身につけている。そして、相手を読むことばかりでなく自分の気持ちを隠すことにも腐心している。
 臆病な獣として。

 隠すと言えば、チャーリーはその風体から優秀さを相手の目から隠す形になっている。本人にはその意図があるかどうかはわからないが、作者の意図としてはあるのだろう。
 劣等感を持ったものの逆転勝利。

 刑事コロンボを思い出すが、あちらは意図的に油断させているのでは、と思ってしまう。もちろん子供の頃テレビを見ていた時はそんな風には思わなかったが。
 「うちのかみさんが…」と唐突に話題を変えることや、一旦帰ると見せかけて油断させて質問すること。すべてがテクニックに見えてきてしまう。

 切れ者。凄腕。
 そんな表現が飛び交う世界は、会話も緊張の連続で、チャーリーは無防備な会話への憧れもあるようだが、読者としては自分の身の回りの会話の緊張感のなさを残念に思うばかりだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年12月28日
読了日 : 2012年12月28日
本棚登録日 : 2012年12月28日

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