人は愛するに足り,真心は信ずるに足る: アフガンとの約束 (岩波現代文庫 社会 328)

  • 岩波書店 (2021年9月17日発売)
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感想 : 22

いやあ、読んでよかった。中村哲さんの書かれたものは1冊しか読めていなくて、何か読もうと思いながらそのままになっていた。今回文庫になったので読んでみた。もう本当にこの人は利他の人だと思う。なにかもう自分のことを全然考えられていない。どうしてそこまでできるのか。しかし、本当に幸せだったのだと思う。心やすらかだったのだ。「おひさまと一緒に起きて、働けるときまで働いて、そして『ああ、今日も一日が終わったな』と。明日の予定を立てて、もう八時ころには寝るんですね。その毎日ですが、やっぱり自然のリズムで、汗を流して働くというのは、非常に健康で、心身ともにさわやかな感じがします。」今の日本ではそういう幸せを感じることができなくなっているのだろうなあ。そしてアフガニスタンの一般の人々は「彼らは日本人ほど高望みがないんですね。三度のご飯が食べられること。それと、家族が仲良く故郷で一緒に生活できること。この二つを叶えてやれば、いろんな問題のほとんどは解決する。」中村哲先生のされた仕事の中では、もちろん命の水を引いてくるというのが最も大きな仕事だろうが、本書を読むとマドラッサ(伝統的な寺子屋のようなもの。モスクを中心にした識字教育などをするところ。そこでは長老などが話し合っていろいろな問題解決もしている。)をつくったということも大きかったように思う。その工事を始める鍬入れ式のときに村人たちは「これで自由になった!」と言ったとのこと。それをタリバンを育てると言って破壊しようとする。そのマドラッサで学ぶ子どもたちのこともタリバンというそうだが、政治的な活動をするタリバンも貧しい農民などが中心のようだ。それに比してテロを起こすようなアルカイダは裕福でヨーロッパで教育を受けたりしている。そこには西欧社会の矛盾が見え隠れする。「野蛮な国を文明化してやるというような奢りね。これは食えないと思います。」軽くおっしゃっているが、ここから中村先生の強いメッセージが読み取れる。それと、前半の先生自身の生い立ちなど昔話の中、北朝鮮の拉致事件についての件で、こういうことばがあった。「自分の身は針で刺されても飛び上がるけれども、相手の体は槍で突いても平気だという感覚、これがなくならない限り駄目ですね。」これも重要な発言だと思う。ところで、聞き役の澤地さん、どうしてこうも唐突に話を他に転回されるのか(展開では無く)。読みながら何度もそう思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 伝記
感想投稿日 : 2021年11月18日
読了日 : 2021年11月18日
本棚登録日 : 2021年11月14日

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