蘇我入鹿 落日の王子(下) (文春文庫 く 1-20)

著者 :
  • 文藝春秋 (1985年4月25日発売)
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感想 : 10
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(上巻から続く)それはすなわち唐にならった律令制にもとづく中央集権国家化である。入鹿の苦悩は、大王家の血筋ではないが故に自分が絶対に大王にはなれないという現実である。唐では皇帝がすべての権力を握り、政を担うからだ。その問題を解決してくれたのが高句麗のクーデターである。一介の将軍が王を殺害し、中枢にいた貴族を皆殺しにして権力を簒奪する。入鹿に「これこそ我が道!」と気づかせる一件であった。

しかし一方で稀代の策謀家が虎視眈々と機会をうかがっていた。支那の兵法を知悉する男・中臣鎌子である。鎌子は入鹿に悟られることなく、水面下で着々と駒を進め、巨大なる敵を手中に囲い込んでいく。そうとは知らない入鹿は、野望の実現のために暴走の度合いを強め、目障りな山背大兄王の上宮王家を滅ぼし、更にはなんと・・・。そしてあの645年6月12日を迎える。巨象の倒れた瞬間は、野望に殉じた魂の咆哮が聞こえてくるがごとくであった。読後感に寂寥と悲哀を感じたのは私だけはあるまい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史/時代小説
感想投稿日 : 2023年10月2日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年2月19日

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