吾輩は猫である

著者 :
  • 2012年9月27日発売
3.56
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本棚登録 : 1219
感想 : 92

[十一以降]

 読了。というか、最後まで読んだのは初めてだったのだけど。こんなエンディングだったのかー! 知らんかったよ! 驚いて呆然としてしまった。いやはや。いやはや。いやはやいやはや!
 直前までの登場人物たちのかけあいを、行き過ぎたジョークを面白がってすぐに大喜利になる Twitter のようだとか思いながら、ニンゲンいつになっても変わらないものだなというかそのとおりになってるよ、とか、つっこみを入れながら読んでいたのだけど、まさかそれがこんなラストに繋がるとは! 世のなかの儚きことよ……

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[六-十]

 時代背景のせいだろうと思うのだけれども、コメディのつもりで書かれていると思われるところが、読んでいてつっかえることが多い。そして、これそのとおりのことが現在にも続けて起こっていたりするので、人の学ばないことよと、少しくため息が出たりする。そして、最近の若い者は云々とかいうくだりが、現在のそれとほとんど変わらないどころか、余程酷かったりもするので、その言葉から始まるあれこれは、たぶんほとんどが思い込みで、もうまったく気にすることはないのだろうと思ったりする。

 語り手は猫なのだけれども、その辺をうろついているだけの猫であれば知りえないようなこともしたり顔で語っていたりするので、漱石そのものが語り手であると考えてよさそうな気もする。そして、その内容が割とシビアというか、文句だらけというか、いやいやさすがにそれはどうでしょうとつっこみたい気持ちでいっぱいになったりすることもあるような代物で、そう言えば本作が漱石の最初の長編作品だったかと思い出し、さすがの漱石にも若書きの頃があったのかしらんと思ったりする。

 実在する固有名詞がばんばん出てくる。当時の新聞読みの人たちには心当たりのあるエピソードばかりだったのか。日露戦争とかがこの小説の傍らで平気で起こっていたのだということが透けて見えて、どういう立ち位置で、どういう気持ちで、その時代を過ごしていたのだろうと思うけれども、冷戦時代を特に何とも思わずにスパイ小説などを読みながら過ごしていた自身の過去を思えば、漱石たちにとっては、日常会話でちょっと口にされたりする、やはり通常のことであったのかと思ったりもする。

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[五まで]

 相変わらず漱石をちょびっとずつ読んでいる。驚いたことに、『吾輩は猫である』は、どうやら今まできちんと読んだことがなかったらしい。かの有名すぎる書き出しのあとは、びっくりするほど全然覚えていない。どうやら『坊っちゃん』と取り違えていた部分があるらしい。自分、いい加減すぎる……

 そして、とても驚くべきことに、めちゃくちゃ面白い。今まで読んだ漱石のなかで、いちばんコミカルでユーモラスだ。登場人物たちがみな生き生きとおかしく、何より語り手の猫がよい。

 というか、猫がヒトのように語るという形式は、『綿の国星』よりも、『じゃりン子チエ』よりも、ずっと昔、漱石が確立していた伝統的なものだったのかと、あらためて驚く。一方的にヒトの言葉を解し、届かぬつっこみを入れまくり、たまに猫らしくがんばってみようとしたら大失敗したりと、本当に、まさにチビ猫と小鉄を足して 2 で割ったようなキャラなのだ。「吾輩」の語りにつられて、脳内で 2 匹のイメージがぐるぐる動く。

 夫妻の会話は掛け合い漫才のように小気味よくテンポよく、読んでいてとても楽しい。そして鼠取りの場面の躍動感の溢れること。当時の家屋の様子などが目に見えてくるようであり、さらににおいすら感じさせられる。漱石の筆の見事さを堪能した。

 自分勝手に考えていたのよりもずっと長編なので、まだまだ読み切れない。楽しんで読む。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年11月6日
読了日 : 2021年8月22日
本棚登録日 : 2021年8月22日

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