現代語訳の舞姫はとても読みやすかった。そして、読み終わった途端に原文にも触れてみたくなる。この文庫には、現代語訳、詳しい解説、そして原文がちゃんと掲載されていて、更に興味深い資料までもがくっついているので、存分に舞姫の世界に浸ることが出来る。
他人の期待に応えることで自己を形成してきた豊太郎。留学生としてのベルリンでの生活が3年を経った頃、今までの自分の内面を省みることとなる。そんな折にエリスとの運命の出会いを果たし愛し合ったものの、その恋は遂には成就することなく、豊太郎は友人の相沢の導きもありエリスを捨て日本に帰国することになるのだ。相沢は、かなり仕事の出来る男だと見える。わたしが想像する仕事の出来る男とは、時に冷酷な決断をし、他人に対して非情になることを厭わない奴のこと。勝手に相沢はそんな男だと思ってしまう。
豊太郎は、自分の口からエリスに別れを告げることが出来ずに悶々と悩み、ついには病に倒れてしまうのだが、その隙に相沢はエリスにとって最も恐れている現実を、豊太郎の意志など関係なく彼女に告げるのだ。その結果、彼女は気が狂ってしまうのだけれど、相沢にとっては、そんなことは何の問題でもないのじゃないだろうか。いや、もしかしたら彼はそこまでちゃんと計算していたのかもしれない。その方が豊太郎の帰国が確実に叶うだろうと……うーん、気になる男だ。わたしの妄想が止まらない。
エリスに自分で別れを告げることが出来なかった豊太郎。やっぱり、別れは辛いものになろうとも裏切ることになろうとも、自分で決着をつけない限りお互いに前へ進むことは出来ないのではないだろうか。でも病から目が覚めた豊太郎の前には、もう以前のエリスはいない。彼はこれから、エリスへの罪悪感と負い目を背負いながら生涯を過ごすことになるのじゃないかな。終わらすことの出来なかった恋って、ずっと引きずると思う。
豊太郎は相沢に対して、良友だと言うものの、彼を憎む気持ちが今日まで残っていると最後に告白している。元はといえば、エリスとの関係を絶ち帰国する事を決めたのは豊太郎自身なのだけれど、相沢を憎むことでしか彼の中で、この恋を終わらすことが出来なかったのかもしれない。出来る男、相沢もこの複雑な豊太郎の心の中までは考えが及ばなかったのではないかな。いや、でも彼はやっぱりそんなことが分かったところで何一つ気にしなかったかもしれない。やっぱりわたしには気になる男だから、いろいろ考えてしまう。
だけど、相沢では舞姫の主人公にはなれないね。やっぱり豊太郎だからこそ、タイトルの「舞姫」に仄暗い哀愁と繊細な美しさが感じられるのだもの。
- 感想投稿日 : 2018年5月22日
- 読了日 : 2018年5月21日
- 本棚登録日 : 2018年5月22日
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