翻訳もの、特に古い作品には取っ掛り難さがあるような気がしているが、本書は非常に読みやすかった。
「雨」世界短篇小説史上の傑作と言われる本作。
登場人物も少なく特徴があり、風景や会話の丁寧な描写と相まって、情景や空気感まで、怖いくらい切迫して感じられた。
ずっと続く雨、耐え難い暑さ、階下の喧騒、二夫婦の会話、何から何まで息苦しいのだ。
個人の確固たる信条や信仰や価値観は本来の存在意義と反比例し、その世界や考えをどんどん固く、狭くしていく。本人はそれに気づかずそれはあたかも疑うことなく当然で、自分も苦しんでさえいるのだと思っている。
そのベースになっているものが宗教であるから尚厄介だ。
読んでいれば描かれていない部分で何が起こっているかは大体想像が着くが、どんな結末が用意されているのかが気になった。
こう来たか、という思いと、またそこできっとこういうやり取りがあったのだろう、あの選択すらデイヴィドソンのエゴが溢れるほど感じられ、それぞれの立場の人間の業を感じ、また息苦しくなった。
多くを語りながら大事な部分は全て読み手に委ねる手法。
息苦しいのに何度でも読みたくなる。
「赤毛」本作も早々に色々と分かってしまう作りなんだけど、恋がもえあがる時とその後の落差がいかにも現実的で、また、色々語ってて恥ずかしいのもとても面白い。
「ホノルル」自分の体調もあるのかもしれないが、微妙だった。
けれど最後の最後に、前二作同様の雰囲気はあった。
時代的に仕方ないとはいえ、全編を通じて人種差別的な表現が散見され、なんとなく嫌な気分になった1冊。
- 感想投稿日 : 2021年8月29日
- 読了日 : 2021年9月14日
- 本棚登録日 : 2021年7月22日
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