SFというより本気の戦争小説でした。
翻訳なので実際の文章はわからないけど、ただ少なくともこの文章は読みやすくて良かったです。さりげなく散りばめられた目を引く文章の数々。ヴォネガットの場合は、美しいとか迫力がある系よりも含蓄に富んだ文章で、言葉のゆるい空気以上に直接的に語りかけてくる。異星人、時間跳躍、第三者視点(人称)。体裁だけ見たら特殊でいざ思い起こすと複雑多岐に渡る内容なのに、それを簡潔に読ませようとする作者の力量が凄い。現実の物事を語る上で非現実の目が巧く作用しておりSFだから伝わるモノもあることを思い知らされた。加えて全体的にブラックユーモアのある文体が悲壮感を増します。
主人公のビリーは不条理作品に相応しいくらい流されやすい。その彼が後半で「私はドレスデンにいた」とはっきりと明確な意思を持って発言する場面は深く印象に残りました。あとこの少し前にエドガー・ダービーというハイスクール教師が自身の戦争観について語り『しかしいまダービーは、ひとりの人間であった』と第三者視点で評する部分、この小説の中でも強いくらい意思を感じさせた。飄々とした文体の中にあっても、作者が力強く訴えたいこと伝わりますね。あるいは全体として堅苦しくないからこそ際立って印象に残るのか。どこまでが計算ずくか計り知れない。
読んだ後、しばらくしてふと目を閉じて思い起こす、そんな味のある作品。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2021年10月2日
- 読了日 : 2021年9月30日
- 本棚登録日 : 2020年2月10日
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