決断力 (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA (2005年7月10日発売)
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菓子屋のせがれだったころ、
工場長の西原さんという人が、将棋を教えてくれた。
それで、仕事が終わると、毎日教えてもらった。
ところが、いつも、私が負ける。
くやしくて、よく泣いたものだった。
しかし、勝てないことで将棋というモノの意味を教えてくれた
ような気がする。

羽生善治は、言葉が選りすぐられ、全くアーティストだ。
なにか、ゾクゾクした。

「人間にはふた通りあると思っている。
 不利な状況を喜べる人間と、喜べない人間だ。」

たしかに、うまく行っている人でも、不利な状況になるときがある。
それをどう切り抜けるかであり、
ずっと、不利な状況にあるときもある。
その状況の中で、知恵を出して突破していく人。
つまり、いまの状態で言えば、知恵が出し切れていないから故に
不利な状況をかえることができない。
いうならば、そういう状況を楽しみ、突破していくものだけが、
次の新しい不利な状況を作り出すことができるのかもしれない。

羽生さんは言う
「未知の世界に踏み込み、自分で考え、
 新しいルートを探し求める気迫こそ
 未来を切り開く力になる。」

勝負師として持続するには、あくまでもその強い意志なんだろうね。

「自分がさした瞬間には、自分の力は消えて、他力になってしまう。
 そうなったら、自分ではもうどうすることもできない。
 相手の選択に「自由にしてください」と身を委ねることになる。」

これは、将棋だけではない。
ビジネスの分野も同じことがいえる。
メールなどを送るときに、一体どんな返事を期待するのか?
そして、自分の考えているような返事がくるのか。
全く、見えない表情の中で、やりとりするときに、
相手の行間を読み、ビジネスをすすめていく。
相手の自由にしてもらう余裕が、
ないと、自分で結論づけてしまうことがある。
そういうときは、広がりがなくなる。

「大山康晴先生は、『相手に手をわたす』のが上手で、・・・」
ということが、この厳しいつばぜり合いの中で、
相手のチカラをもかりて闘う。
ふーむ。奥行きがあるし、その静かな語り口には、
相手を圧倒するモノさえある・・。

「じっと見ていてもすぐには何も変わりません。
 しかし、間違いなく腐ります。どうしてか?
 時の経過が状況を変えてしまうからです。
 だからいまは最高だけど、それは今の時点であって、
 今はすでに過去なのです。」

瞬間瞬間に変わっていく状況。
将棋のおかれているのは、1手づつしか変わらないが、
刻々と変化していく中で、つねに最善を尽くす。
流れを読みながら、空気をつかみながら、
とぎすました眼で見ていくことの大切さを痛感させる。

「全体を判断する目とは、大局観である。
 一つの場面で、今はどういう状況で、
 これから先どうしたらいいのか、そういう状況判断ができる力だ。
 本質を見抜く力といってもいい。
 その思考の基礎になるのが、勘つまり直感力だ。
 直感力の元になるのは感性である。
 ・・・・
 ぎりぎりの勝負で力を発揮できる決め手は、
 この大局観と感性のバランス。」

そういう中で、決断していく。

これは、毎日の営々たる努力だろう。
同じように24時間を生きて、ここまで透徹した考えを持つこと
このことに、妙に心うたれるモノがあった。

将棋という日本の伝統的なゲームをここまで読み込んでいく
そして、楽しんでいる姿は、痛快をこえている。
今の新しい状況・・・コンピュータでの解析、情報が瞬時に伝わり、
分析される・・・定跡さえ体系化され、次の局面の1手の理由も
ハッキリしはじめたという。
そうであるが故に、自分の直感を信じ、自分で考えることを
続けることが、今を勝ち抜く姿勢なんだろう。
実に充実した本でした。
自分で考えることの意味を教えてくれる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 将棋/ゲーム
感想投稿日 : 2013年2月11日
読了日 : 2013年2月11日
本棚登録日 : 2013年2月11日

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