学びとは何か――〈探究人〉になるために (岩波新書)

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  • 岩波書店 (2016年3月19日発売)
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認知科学を専門とする今井むつみ(1958-)が、子どもの発達とりわけ子どもの言語習得の過程に関する研究を参照しながら、あるべき「学習の型」を考察する。2016年。



「主体的で自律的な学習」の在り方について考えさせられた。

「学習」とは、外から与えられる新たな知識を単に記憶に貯蔵していくだけの「一方向的な量的蓄積の過程」なのではなく、①新たな知識を自分で発見し、②既存の知識を通して新たな知識に対して主体的に意味を付与し、③既存の諸知識が予め相互に関係づけられて配置されているシステムの内部に新たな知識を位置づけ、④新たな知識が既存の知識のシステムと矛盾する場合はその整合性を保つためにシステムに必要な変更を施し、⑤知識のシステムをより精緻で豊穣なものにしていくことでさらに新たな知識を発見し創造していこうとする、「自己反省的な質的変容の過程」であるといえる。最終的な目的が予め措定されていない弁証法的な過程。

「[略]、子どもの言語の習得の過程とは知識の断片を貯めていく過程ではなく、知識をシステムとしてつくり上げていく過程に他ならない」(p40)。

「子どもは大人が母語を使う(つまり話をする)ことを模倣して母語を学ぶ。しかし、それは決して「猿真似」ではなく、親が使う言語を聞いた時に、インプットに対して分析、解釈を行い、自分で言語のしくみを発見することによって言語を自分で創り直すことに他ならない。結局のところ、模倣から始めてそれを自分で解釈し、自分で使うことによって自分の身体に落とし込むということは言語や運動に限らず、すべてのことの学習・熟達過程において必要なことなのである」(p135-136)。

「言語はあまたの要素が互いに意味をもって関係づけられてつくられたシステムである。語彙の学習を例に挙げれば、単語を覚えるということはドネルケバブの肉片を貼り付けるように、それまでの地点で作られている語彙にさらに新しい単語を加えていくことではないのだ。新しい単語を語彙に入れるために、子どもはその単語の意味を自分で考える。そのときには、すでに知っている単語との関係を考え、語彙のシステムの中での新しい単語の収まる場所を考える。新しい単語が語彙に入れられたら、その単語と関係する単語の意味も変わりうるし、語彙のシステム自体も変動する」(p148)。

重要なのは、「学び」という営みは、単に事実的な知識を増やすことだけなのではなく、そこには「学び方に対する学び」という「学び」それ自体をメタレベルから対象化し反省する視点が内包されている、という点だろう。個々の知識を学習しながら、同時に学習のしかたそのものを学び、学習の質をも向上させていく。そもそも、完全な知識のシステムを一挙に構築することは不可能であり断念されねばならないのだから、自らの「学び」に対して自覚的であること、自らの「学び」に対する批評精神を失わないこと、が求められる。

「「思い込み」に導かれた思考のしかたは、誤った思い込みを生む危険性もある。それでもなお、そのような思考のしかたで素早く知識システムを立ち上げようとするのは、誤りは後から修正すればよいことも子どもは知っているからだ」(p158)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人文科学
感想投稿日 : 2023年7月17日
読了日 : 2023年7月17日
本棚登録日 : 2023年7月17日

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