細雪 (中公文庫 た 30-13)

著者 :
  • 中央公論新社 (1983年1月10日発売)
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本棚登録 : 1413
感想 : 125
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優雅で絢爛な、関西版「サザエさん」(と私は思っている)。人生で一番繰り返し読んでいる作品。初代は開きすぎたせいか背表紙が割れて壊れてしまって、いま手元にあるのは2代目。それくらい大好き。

昭和初期の関西の京阪神の地を主な舞台として、中産階級のそれぞれ個性の違う四姉妹たちの生活を描いています。

乱暴にもサザエさんに例えたのは、細雪が四姉妹たちの(フィクションとしては)そこまで山や谷のない日常生活を描く中で、彼らが味わう季節の風物や行事といったものが抱き合わせで丁寧に描かれているから。
春のお花見、夏の蛍狩、秋のお月見…。
サザエさんも、家族の日常生活の中に四季の行事を色々と盛り込んでいますよね。
(ちなみに、成立は細雪の方が早いです)

そして。
和装と洋装の対比、お琴に三味線に舞踊、歌舞伎といった芸術要素の強いものの差し込み方。
当時の名店や、約80年後の今も残る地名や地理、地域性の使い方。
京阪神に住んでる人は、細雪をより一層楽しめること間違いなしです。私も関西に住んで改めて読んでから、倍以上に楽しめました。

もう、色々なものが、実に巧みです。
さすが、「文豪」、「大谷崎(おおたにざき)」と称されただけある!

ちなみに、谷崎というと多くの人が真っ先に思い浮かべるだろう、マゾや変態の要素は、細雪には、本当にありません。

引っ込み思案なようで気位は高い、でもなに考えてるかはよくわからない、いかにも関西の旧商家のお嬢様らしい三女雪子の見合い話に家族たちが奔走するというのが話の軸。
当時としてはあまりに奔放な四女妙子の恋愛トラブルやデキ婚なども描かれてはいますが、どこから切り取っても、R指定はつかない、健全な、「昭和初期のわりとリッチな層に属した人々のホームドラマ」です。

ザザエさんと大きく違う点は、時間の経過が描かれ、登場人物たちも確実に歳を取っていくこと。
姉妹たちのライフステージや第二次世界大戦直前という時節の著しい変化に伴って、生活環境がゆっくりと、けれど確実に変わっていく過程、そして同時に、伝統的な美が廃れていくものがなしさがしみじみとあわれに感じられます。

いまでは、無料で読める青空文庫や、上・中・下巻に分かれていて持ち運びしやすい新潮文庫版などがありますが、個人的には断然、中公文庫版が好きです。

正直、三巻分全てが一冊にまとまっているせいで900ページ超えの大ボリュームで、文庫の持ち運びの利点は全く殺されています。
それでも、田村孝之介さんによるたくさんの挿絵と、生粋の関西女子・田辺聖子さんによる関西の女を粋に分析した解説が、ものすごく魅力的で、本作の価値を高めています。

熱くなりすぎましたが、日本の美を感じたい人には本当にオススメしたい作品です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 古典
感想投稿日 : 2020年5月18日
読了日 : 2020年5月18日
本棚登録日 : 2020年5月18日

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