司馬遼太郎の幕末・明治 (朝日選書 728)

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  • 朝日新聞社 (2003年5月12日発売)
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『龍馬がゆく』と『坂の上の雲』を読み解きながら、司馬遼太郎が近代日本をどのように見ていたのかを、批判的に検討している本です。

『龍馬がゆく』で司馬は、藩の枠にとらわれず「日本人」としての自覚に基づいて新しい時代を切り開いていった人物として、坂本龍馬を描いています。また『坂の上の雲』では、秋山好古、秋山真秋、正岡子規の3人を中心に、「近代日本」の青年時代のドラマとして、日露戦争が描かれています。こうして著者は、司馬遼太郎の2つの物語によって「近代日本」がどのように構成されているのかを明らかにしていきます。

幕末・明治における国民国家の創出と、それを批判的に検討する著者自身のスタンスについては明瞭になっているのですが、司馬によって2つの作品が物語られることになる1960-70年代の時代背景との関係、著者の言葉で言えば「第二の時間軸」との関係について、もっと詳しい検討をおこなってほしかったという思いが残ります。そうした課題にまで踏み込んでいかないことには、幕末・明治期の司馬の叙述にある偏りがあることの指摘に終始してしまい、「司馬史観」を思想史的に位置づけるというより大きな問題への展望が開かれてこないのではないかという気がします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学研究・批評
感想投稿日 : 2015年2月17日
読了日 : -
本棚登録日 : 2015年2月17日

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